第187話 戦闘機破蓋2
ナナエも緊張感のこもった声で、
(今回はなんとかやり過ごしましたが……あの威力では至近距離どころか距離をとっても危険です。爆風で身体が激しく傷つきますし、建物や地面が破壊された場合、破片が私やヒアリさんに当たれば大怪我です。ヒアリさん! 次の攻撃が来る前にあそこの建物群までいけますか!?」
「一直線だから多分大丈夫だろうけど……私頑張っちゃうよ!」
ヒアリは思いっきりアクセルを踏み込むと猛スピードでマンション街の入り口に向かう。道交法違反のスピードだが世界が滅んでいるんだから無効だ無効。
だが相手が戦闘機破蓋という時点でこちらの軽自動車などうすのろの動きにしか見えないだろう。今度は道路の上を高速で俺らの軽自動車を背後から追いかけ始めた。やばい、ぎりぎり追いつかれるぞ。
俺は背後から迫る戦闘機破蓋を見ながら、
「後ろから来てるぞ!」
「もっとスピード上げるからみんな何かを掴んで!」
激しいエンジン音を鳴らしてヒアリは限界速度で走る。いや完全にスピードメーターを振り切ってるから、限界を超えてしまっている。これもヒアリの力の影響か?
そして、ヒアリはマンション街の入り口めがけて一気に飛び込んだ――それと同時に思いっきりハンドルを回す。タイヤのひどい悲鳴を鳴らしながら、同時にマンション群を碁盤上に並んでいる道を左折した。
――その瞬間、俺たちが通ってきたマンション街の入り口に爆弾が直撃し、激しい衝撃が襲いかかった。直撃ではなかったが、距離がかなり近い。そのため、軽自動車の重量ではその衝撃に耐えられず、思いっきり横転してしまう。
俺はひっくり返った車内で頭を擦りながら、
「ヒアリ! 無事か!?」
「だ、大丈夫だよぅ…。ちょっと痛いところがあるけど平気だよっ」
無理をしている感じはあるが、外傷は見られないし、動けるようだ。多少の傷があっても英女の回復能力ならすぐに問題なくなるはず。
(ここにいるのは危険です! おじさん、ヒアリさんを連れて近くに集合住宅地に逃げ込んでください!)
「わかっちゃいるんだが……!」
横転した車の中でひっくり返っているヒアリを無理に引っ張り出したら変な怪我をさせてしまいそうで、どうもやりにくい。仕方ないので、
「わりぃ代わってくれ。攻撃を食らいそうになったときにまた代わるわ」
(仕方ありませんね……!)
ここで俺はナナエに身体の主導権を返す。ナナエは馬鹿力で軽自動車のドアを思いっきり蹴り飛ばした。窓が割れれば十分だったが、あっさりドアごと吹っ飛んだのでヒアリを引きずりだしやすくなった。英女の馬鹿力に感謝するしかない。
俺は横転した車内からひっくり返った状態のヒアリを引っ張り出す。
次の瞬間、俺達のすぐ頭上の上を戦闘機破蓋が飛んでいった。俺たちは猛烈な風で煽られて身動きが取れなくなり、周囲の瓦礫なども巻き上げられてしまう。
(直接攻撃されなかったのはラッキー――幸運だったか?)
「恐らく背丈の高い高物の中に逃げ込まれたのでこちらの姿が見つけにくくなったのでしょう。おじさんの判断が珍しく当たったようですね。しかし、次は攻撃してきますよ」
ナナエは相変わらず一言多い褒め方をしてきた。しかし、こんなところでだべっている場合じゃない。すでに戦闘機破蓋は俺たちの姿を確認済みだ。
すぐさま俺とヒアリは近くのマンションの入り口に駆け込んだ。集合ポストにチラシを入れたことがあるマンションだったので、
(そっちの右手に集合ポストの部屋――郵便箱があるからそこからなら表に見えないぞ)
俺の指示でナナエはヒアリともにその部屋に飛び込んだ。
その直後、また至近距離の空爆が起きた。周囲のガラスはすっ飛ばされ廃墟だったマンションも更にがぼろぼろになってしまった。
幸いポスト室は小部屋で外からは見えないので爆風や破片が飛んでくることもなくナナエもヒアリも全く問題ない。しかし、さっきの威力では近いところに爆弾が直撃したらまずいだろう。
(とりあえず建物内部に入ろうぜ。そこから通路を通っていけば別の出入り口につける。そこからまた別の建物に入って、って感じにしていけばいい)
「ヒアリさん行きましょう」
「うん!」
ナナエとヒアリはマンション内部への入口へ向かう。そういや個々のマンションはほとんどオートロックだったが……
(あーまあそうだよな)
入り口の扉は完全に破壊されていた。いくらロックを掛けてもドアごと破壊されたら意味がないってやつである。
ナナエとヒアリはマンションの廊下を走り続けるが、
「――近いです!」
「ひゃあ!」
このマンションの一部に空爆が直撃し、ヒアリが悲鳴をあげている。マンション全体が激しく揺れる。向こうのこちらの位置が把握できないせいか、こことはかなり離れた場所が攻撃されたようだ。
俺も結構びびったが、一方でちょっとだけホッとしてしまった。なぜなら今の攻撃が大きく外れたってことは俺らの位置を戦闘機破蓋は把握できてないことが確定したからだ。危機的状況からは一旦逃れられたことになる。
しかし、ここからどうする?
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