第186話 戦闘機破蓋1

 ゴォォォォォォォォという耳障りな音を鳴らしながら空を駆ける戦闘機。それもプロペラで飛んでいるようなものではなくジェットエンジンで高速に飛び回る現代兵器の登場だ。

 恐らく破蓋なんだろうが――いや待て。もしかしたらこの世界でも人類が生存していて、破蓋を倒すためのレジスタンスみたいなのがあってあの戦闘機はその組織の――


「あぶねっ」


 俺は慌てて自動車に顔を引っ込めた。またすぐ上空を飛んでいった戦闘機の衝撃が軽自動車にぶつかり激しく軽自動車が揺れる。

 今の動きは明らかにこちらに攻撃的だった。どう見ても俺らを攻撃する気満々だ。てことはあれは戦闘機破蓋だろう。ん? 地上を攻撃したりすると爆撃機とか戦闘機とか戦闘爆撃機とかいうんだっけ? いやまあこの際どうでもいいから戦闘機破蓋でいいや。


 俺は再び軽自動車の窓から身を乗り出して戦闘機破蓋の姿を追う。俺たちの進んでいた道路を飛び越えて一気に海に出ていた。そして、しばらくしてぐるっと方向転換を始めている。かなりの速度だが、もともと兵器でテレビや映画でよく見たものだから動きが予測しやすい。

 そしてさっき近づいてきたときにちらっと見えたが、戦闘機の全身に黒っぽい――あえて言うなら宇宙みたいな模様が描かれている。やっぱり普通の戦闘機には見えない。

 確実に戦闘機の破蓋だと確信した俺は、


「現用の兵器の破蓋とかありなのか? 俺がナナエの中に住み着いてから見たことがないぞ」


 俺と同じようにナナエも戦闘機破蓋の様子をうかがいつつ、


(武器の破蓋は以前にもでたことがありますが、拳銃や機関銃といったものでした。大型の兵器の破蓋は私も見たことがありません。恐らく新型で間違いないでしょう)


 そう冷静に分析しているように見えて結構焦っているのわかる話し方をしてる。

 よく考えれば大穴に戦車とか戦闘機を持ってきても戦いようがないから送り込んでこなかったのか。


(また来ます! ヒアリさんはすぐに移動してください!)

「りょーかいだよ! でもどこに行くー?」


 この海岸沿いに続く道路は3車線でかなり広く、ほぼ直線を走っていく。こんなところを脳天気に進めば攻撃され放題だろう。一旦どこか隠れられる場所に移動しないとまずい。目的地にたどり着くのが遅れることになるがしゃーない。


 前方の内陸部側にはマンションが並んでいる。崩壊しているのもあるが大方残っている。さらに内陸側には2つ並列したタワーマンションもあった――


(どうかしましたか?)


 俺の口が止まったのをナナエが察知する。俺はちょっと考えてからその場所を指さして、


「あの街に入ってくれ。あそこは外国の街を再現した高級マンション――集合住宅の街だ。建物は全部コンクリート――なんか硬い材質で出来てるし、高い建物が密集して並んでる。その中を移動すれば身を隠す場所が増えて向こうの攻撃を避けやすくなるはずだ。うまく行けばこっちの姿を見失わせることができるかもしれない」

(ここからでは大きい建物がいくつかあるようにしか見えませんが……)

「あそこチラシ配りの仕事でいったことがあるんだよ。あのでっかい塔みたいな建物が2つあるので気がついたわ」

(ああ……なるほど。ならば悪くない場所ですね)


 ヒアリは思いっきりアクセルを踏み込んで、


「わかったよ、いっくよー!」


 俺の指示通りヒアリはマンション街の入り口を目指す。ただし、問題があって、この直前に橋がある。そこを通らなければ目的地にたどり着けないわけだが、当然逃げる場所もない。


(おじさん! 敵が攻撃してきます!)

「俺にも見えてるよ!」


 俺とナナエは戦闘機破蓋が道路を交差するような方向で猛スピードで迫ってきた。次に、戦闘機破蓋の下部についていた2つの――恐らく爆弾であろうものを切り離してこっち目指してぶん投げる感じに落としてきた。戦闘機なので誘導ミサイルが来るんじゃないかと思ったのでそこはほっと一息だったが……


「ぐえっ!」

「ひゅああええ!」


 俺の間抜け声とヒアリの可愛らしい叫びとともに通り過ぎた橋が大爆発が起きる。そして、あたりにコンクリートやらアスファルトの破片が飛び散り、橋本体も木っ端微塵に崩落していった。


「大丈夫っ!」


 ヒアリがよくわからない掛け声とともにさらに軽自動車の速度を上げた。後ろからいろんな破片やら残骸が飛んできて車体にガンガン当たるがほどなくして破片から逃げ切る。


「おいおい……」


 俺が呆然と背後の攻撃された場所を見ながら言う。さっきまであった橋は完全に破壊され周囲もめちゃくちゃになっていた。

 危なかった。距離が少し離れていたおかげでこの程度で済んだが、あれをまともに食らったら俺たちもどうやることやら……

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