第185話 やばいのが来た

 とりあえず破蓋の目的がずっと言われていた世界すべてを破壊することにあるのは間違いなさそうだ。やっぱりこいつらをナナエたちの世界に浮上させる訳にはいかないな。ただ意思があるってことはこのカーテン破蓋みたいに立場を翻す可能性もあるってことだ。それがわかったのは大きい。


 しかし、ボスとして振る舞う天蓋は相当こじらせているっぽいが、説得は可能なのか。そもそも俺が見た光景を思い出す限り、天蓋は宇宙そのものの破蓋だ。チリの程の大きさもない人間の言葉なんて聞き入れる余地はあるのか。


(前途多難すぎる……)

「ですね……」

「そだねー……」


 三人でげんなりしてしまう。戦いはここから先更に面倒な方向になってきそうだから当然である。

 だがヒアリはすぐに強く頷いて、


「でも私頑張るよ! この破蓋さんとも仲良くなれたんだし、きっと天蓋さんとだって仲良く慣れるはずっ!」

「こういうときはヒアリさんの希望的思考が羨ましく見えてしまいます」

「それにミミミちゃんたちもいるし、私達が思いつけないこともきっと思いつけるよー。みんな一緒に頑張ればきっと何でもできるよっ」


 そんなヒアリの明る言葉にナナエは軽くため息をつくが、別に呆れているわけじゃなく少し笑顔をみせていた。


 それから再び軽自動車を発進させ、しばらく海岸沿いの道を軽自動車で走り続ける。ナナエは携帯電話で時刻を見るものの、


「現在時刻はわからないので時間経過を図るぐらいしか使えませんね。ここまでの時間と移動距離を考えれば、あと3時間程度でおじさんが言っていた目的地にたどり着けるはずですが……」

(今あっちの世界は何時だろうな。こっちと時間の流れがいっしょならいいんだが)

「どういうことー?」


 ヒアリが首を突っ込んできたので、


(いやSF――なんて言っていいのかわからないが科学の創作小説とかだとあっちの世界とこっちの世界の時間の流れ方が違うとかいうのがあって、こっちの1分が向こうの1年になるとかいう設定のがあったりするからさ)

「えー、そんなの置いてきぼりになっちゃうよぅ」


 ヒアリが悲痛な声を上げた。まあ単にフィクションの話だし、あてになるかもわからんし。


「ちょ、ちょっとっ」


 ナナエが突然抗議の声を上げる。カーテン破蓋の野郎がこっちにバッサバッサカーテンの生地をぶつけてきやがったのだ。


(わかったわかった。ヒアリに不安を抱かせるような事は言わないようにするから)


 そういうとあっさりヒアリのマント状態に戻った。


「変なことを言うのはやめてください。実害を食らうのは私なんですから」


 軽くカーテン破蓋に叩かれたナナエは自分の身体に怪我が出来ていないかチェックし始める。が、何もなかったようですぐにルート検索を始めた。


 ナナエは地図を指で目的地へのルートをなぞっていく。バイパスみたいなものだからかなりの速度で走れる。恐らく距離から考えて数時間後には俺の死んだ団地にたどり着けるだろう。 


「この道路は破損も少ないですし、思ったより目的にまで時間がかからないかもしれません。このまま一気に進んでしまいましょう」

(ちょっと待った)


 俺が即座にナナエをとめる。


「なんですか急に。時間がないんですよ」

(思ったより早く行けそうなら、節約した時間を使って確実性を上げてもいいんじゃないか?)

「どういう意味ですか」


 俺はナナエの視界から見れるだけの情報を得てから、


(この道は広い道路を物陰が殆ど無い海外沿いの道だ。それに海の上を破蓋が通過しているから俺たちは相当見つかりやすい。待ち伏せとかもあったら大変だ。最短ルート――最短の道なんて待ち伏せにもってこいすぎる)

 

 ナナエが持っていた地図を俺が読み、


(近くにマンション街がある。マンション高度が高いのばっかりだから、隠れる場所が多い。多少の回り道になるが、見つかりにくいと思う)

「マンションってなんですか」

(でっかい家の集合体みたいな建物だよ)

「なるほど……。この団地と呼ばれるものを通れば時間がかりますが、破蓋との戦闘を考えると、結果的に視界が開けてない道を移動したほうが安全かもしれませんね」


 これを聞いていたヒアリはハンドルを握り海沿いの道から内陸側へと移動した。マンション街まではまだ距離があったが、ここもビジネス街で高いビルが多い。これなら見つかりにくいだろう。


 だが、


「――――っ!」


 ここでヒアリが突然身体をこわばらせた。まだ自動車を走らせているが、全身を緊張させ顔もかなりこわばらせている。


「どうかしたんですか!?」


 ナナエがそう尋ねると、ヒアリはしばらく黙っていたが、身につけているカーテン破蓋をあやすようにさすり始め、


「すごい怯えちゃってる。すっごく怖いのが近づいてきてるって!」

「車を止めてください!」


 ナナエの指示に従いヒアリは即座に軽自動車を停車させた。ナナエは窓から外の様子をうかがいつつ、


「恐らく破蓋でしょう。簡単に私達を目的地へと移動はさせないとは思っていましたが……」

(ちっ、結局回り道した意味なしかよ)


 見つからないように回り道したのに逆に時間を食っただけで終わってしまった。余計なこと言わなけりゃよかったか。


 だがナナエは首を振って、


「破蓋が偶然私達を追いかけてきたとは思えません。もっと前から私達を見つけてこちらに向かっていた可能性のほうが高いです。とにかく今は破蓋を確認しましょう」


 耳を澄ませるが、風と海の音だけがかすかに聞こえてくる。


「もうこっちを見つけてるって。こっちの言葉なんて受け付けないほど深く抗うことを決めている破蓋さんが来るっていってるよ」

(おい、なんかヤバそうだから俺に変わっとけ。不意打ちで強烈な攻撃を食らったら取り返しがつかないことになるぞ)

「そうですね……お願いします」


 俺はナナエから身体の主導権をもらう。そして、再度軽自動車の窓から頭を出して周りの様子を探った。

 やはり静かだ。聞こえるのは風と波の――ん?

 その中に違う何かの音が混じっていることに気がつく。ゴォォォォォォォォと低い風を裂くような音だ。

 

 そして、それは現れた。俺たちの頭の上に。


「――――ぐへっ!」


 俺は突然の衝撃に思わず窓枠に頭をぶつけてしまう。いてえな畜生、なんなんだよ。

 痛みをこらえて目を開くと、それが頭の上を通り過ぎていった。視界を共有しているナナエもそれを見て、


(今のはなんですか!? 鳥!?)

「いやあれは……」


 ものすごいスピードで空を飛ぶものを見て、俺は唇を噛んだ。


「戦闘機だ」

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