第184話 天蓋という存在
「すいません、遅れました」
「大丈夫だった? 何かあった?」
ナナエはヒアリの待つ軽自動車に乗り込む。するとヒアリにまじまじと見られて、ナナエは視線を外しながら、
「……いえ、破蓋を見つけたんですが、破却していいのか迷ってしまい取り逃がしました」
(悪い。俺が直前に余計なことを言ったせいだ)
俺らがそういうとヒアリはいつものように笑顔で、
「私を気にすることはないよ。ナナちゃんとおじさんは自分たちがやりたいことをすればいいんだよ。私はそれを全力で肯定するからね」
かわいい。うーん、ヒアリはやっぱりかわいい。あー、かわいい。
(気持ち悪いからやめてください)
(うるせー)
ナナエがジト目で文句言ってくるのを一蹴しておく。
ヒアリはハンドルを握ると、
「これからどーするの?」
「破蓋はおじさんが死んだとされる方向に向かっていました。他に宛もないのでそこに向かいます」
「りょーかい」
ナナエのナビに従って軽自動車を走らせ始めた。
俺はふとヒアリのマントのままになってるカーテン破蓋を見ながら、
(そういや、そいつに聞けば破蓋の総大将――天蓋の目的がわかるんじゃないか?)
「私も気になりますね」
そう俺とナナエに言われるが、ヒアリはうーんと少し考えて、
「私もさっき聞いてみたんだけどね、よくわからないって言ってたよ」
「なんで理由もわからないものに従っているんですか……」
呆れてしまうナナエ。どういうことなんだ?
ヒアリはカーテン破蓋をさすりつつ、
「天蓋さんはとにかく従えって言ってくるんだって。それで自分たちを苦しめる存在に抗わなくてはならないという気分になっちゃうとか、そうしないと自分たちに危険があるような感じがするって」
「それは……人間に対してですか?」
ナナエの指摘にヒアリは首を振って、
「ううん。この世界に存在するあらゆるモノに対して抵抗するんだって。この破蓋さんも意識とかそういうのはなくて、ただそこに存在していただけだったのに、突然――なんていえばいいんだろ、考える力?みたいなのを与えられて、それで天蓋さんのいうことが正しいんだなーみたいな感じになっちゃってたって。うまく説明できないや。ごめんね」
「いいえ、重要な情報かもしれません。ありがとうございます」
ナナエは思案顔になりつつ、
「ミミミさんの仮説では破蓋と神々様は同じか同系列の存在だと言っていました。それが正解なら破蓋というものは神々様に何らかの意思を与えられたものなのかもしれません」
(神々様に意思とかないのか? 英女とかより好みしているじゃん)
「まあ確かにそうなんですが……意思というよりも反応という言葉に近い感じに思えます。そもそも神々様そのものが科学的に解析されたわけでもないので……」
(反応ねえ……)
まあ確かに俺がヒアリかわいい!と思うのも意思というより自然とそう感じるからな。神々様が英女を選ぶのも似たようなことなのかもしれない。
「それは単なる汚らしい衝動です。今すぐ排除すべきものです」
(うっせ。止められられないものはどうしょうもねーんだよ)
「全く……やれやれですよ」
呆れてしまうナナエ。
ふと俺は思いつき、
(でも意思が与えられたっていうけど、呼びかけは「従え、抗え」だろ? これは破蓋に意思をもたせた上で命令に従わせているだけだから、本当のところ破蓋がそれを納得しているかどうかもわからないってことになるな)
「確かに。意思を持たされたのであれば、天蓋からの呼びかけに拒否する存在があってもいいはず」
(まあ俺とかは破蓋の呼びかけを蹴ったしカーテン破蓋もヒアリに懐いて天蓋の指示には従ってないからな。実際応じていない神々様もいるのかもしれないが、それを探す時間はちょっとないか)
工作部と今にも暴れだしそうな先生を置いたまま、俺の世界に飛ばされてしまったんだから、学校が今英女なしでどうなっているのか気になってたまらない。せめて電話とかで連絡がつけばいいんだが、まああの大穴を通して電波が通るとか無理だろう。
俺とナナエがそんな話をしていると、ヒアリがまたカーテン破蓋をさすりながら、
「大丈夫だよ。あなたは私がすべてを使って守るからね。だから安心して話して」
なにやら話し込んでいる。ヒアリのカーテン破蓋に声を掛けるときの口調は柔らかく優しさを感じてしまう。もうかわいい。
ほどなくしてカーテン破蓋から話を聞いたヒアリは、
「破蓋さんにもやっぱり天蓋さんの言葉に応じないのも多いんだって。でもそうすると天蓋さんが容赦なく破壊しちゃう。だからこのかーてん破蓋ちゃんは私達の世界に侵攻しないといけなかったとか。うーん、ひどいなぁ」
(天蓋の野郎、人を使っておいて使えないと判断したら抹殺かよ。ろくな経営者にはなれねーな)
よく集団組織を作ることが出来たのかと呆れる俺だった。
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