第182話 旅路

「ナナちゃんあったよー!」


 ヒアリが近くの廃墟の店舗から出てきた。その手には軽自動車の鍵が握られている。

 現在位置を廃屋から引っ張り出してきた地図やら看板の地名やらで割り出したところ、俺の死んだ場所までかなりの距離があることがわかった。英女なら走っていくのも可能な距離だったが、体力を消耗して途中に破蓋に遭遇したらひとたまりもない。

 というわけで自動車を探して乗っていこうという流れになった。幸いヒアリが前に軽トラを乗り回していたので運転ができる。


「おー、動いたよ!」


 ヒアリが軽自動車のエンジンを動かして笑顔になった。ガソリンも半分ぐらいあるので目的地までは十分にたどり着けるだろう。


「荷台付きの方が良かったんですが……」


 ナナエはまだ周辺を見回していた。確かにトラックなら後部座席にナナエが乗って周囲を警戒しやすい。しかし、周りは廃墟で自動車があってもほとんど破壊されている。


(ここにいるほうがやばいぞ。また面倒な破蓋が来る前に移動したほうがいい)

「仕方ありませんね」


 ナナエも助手席に乗り込んだ。そして、地図を開いてヒアリに行き先を指示する。


「よーしいっくよー」


 ヒアリはゆっくりと軽自動車を走らせ始めた。


「このまま海を目指しましょう。そこの海岸沿いの道をずっと南下していけばかなり目的地につけます」

「はーい」


 ナナエの指示にヒアリは楽しげにフンフン鼻歌を混じらせて答える。

 10分ぐらい走ると海が見えてきた。しかし、真っ青な空に真っ赤の海。沿岸に立ち並ぶ倉庫や工場はめちゃくちゃに破壊されまるで大震災の後のようになっている。そんな不気味としか言いようがない光景にぞっとしてしまう。


「もし私達の世界でも破蓋が地上に出ればこうなってしまうんですね……」


 凄惨な有様とかした俺の世界を見てナナエが恐ろしげに語る。

 ふと、ここでヒアリが何かを思いついたように、


「そーいえば私達が目指している場所っておじさんが亡くなったって思われる場所なんだよね。そこから破蓋さんが現れて私達の世界にもやってきてるって」

(まあそこで本当に死んだかどうか覚えてないけどな)

「でもでも、おじさんのいたところにはじめて破蓋さんが出てきたのなら、そこはこことは別の世界とつながっているところであって、私達の世界とつながっている場所じゃないような気がするかなーなんて」

「あ」

(あ)


 ヒアリのツッコミに俺とナナエが唖然としてしまう。そういやそうだ。もしそこに大穴があったとしてもそれは俺の世界に侵攻してきたときに使った大穴があるだけで、ナナエの世界に侵攻するための大穴じゃない。やべえ、完全に勘違いしてた。


 俺とナナエがどうしようと焦っていると、ヒアリまで焦りだして、


「え、あ、大丈夫だよっ、おじさんの考えが間違っているとかじゃなくて私もなんとなく思いついただけだから!」

「いえ、ヒアリさんの指摘は正しいです。私とおじさんの思慮が足りてませんでした」

(どうする。このまま進んでも骨折り損のくたびれ儲けになるかもしれないぞ)

「しかし、どこに向かえばいいのか……」


 ナナエもうーんと唸ってしまう。ふと、ヒアリがまだマントにしているカーテン破蓋に目が止まり、


(なあ、そいつはなにかわからないのか?)


 俺がそう言うとヒアリはなにやらカーテン破蓋と話していたが、


「場所ははっきりとはわからないって言ってるよ。でも、天蓋さんの呼ぶ声に従って向かっていてそこにあった大穴から私達の世界に来たのは間違いないって」


 まあ確かに細かい位置なんていちいち覚えてないわな。ん、ちょっと待てよ。


(てことは破蓋は未だにナナエの世界に侵攻しようとしているってことだよな。なら破蓋を見つけてそいつらの跡をつけていけばいいんじゃね)

「理屈は正しいと思いますが、破蓋は英女や人間を見つけると襲いかかってきます。見つからずに追跡するのが可能でしょうか?」


 ナナエの疑問はもっともだ。大穴の戦いでは破蓋は英女に殺意むき出しにして襲いかかってきている。

 しかし、さっき戦ったビン破蓋はなんども一時的に俺達の姿を見失って探し回っていた。てことは物陰に隠れたり距離を取れば、こっそり破蓋の跡をつけて行けるだろう。


「仮に追跡しなくても移動先がわかれば地図を使って大体の方向はつかめます。遠距離ならばこちらを見つかることはないはずです。ヒアリさん、今どこに破蓋がいるのかそのかーてん破蓋に聞けますか?」

「ちょっとまってね……あ、近くに破蓋さんがいるって! 海の方みたいだよ!」


 ヒアリがカーテン破蓋の言葉を受け取り、俺達に緊張が走る。ちょうどいいタイミングだったが、襲われては無意味だ。


「ヒアリさんはここで待機していてください。もし、こちらになにかあればすぐに逃げるのでいつでも自動車を発進できるようにお願いします」

「了解、りょーかいだよっ」


 ナナエはすぐさま軽自動車を降りて海岸へと向かった。

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