第181話 ビン破蓋4
ナナエは走って近くの大通りに出た。その先にはビン破蓋が俺らを探してふらついている。
即座に大口径対物狙撃銃の一発をビン破蓋の土手っ腹に撃ち込んでやる。当然今までどおり弾は弾かれてしまい、すぐにこっちの位置を特定したビン破蓋がシャカシャカと上下運動を始めた。
「ここで決めます!」
ナナエは大口径対物狙撃銃を構える。狙いはビン破蓋の栓だ。
やがてビン破蓋がその身を倒してこっちに口を向けた。そして、ポンッと言う音とともに、栓が猛烈な勢いでこちらめがけて発射される。
「――――っ!」
その栓めがけてナナエは一発発砲した。飛んできた栓に直撃し、明後日の方向に飛ばされていく。よし、第一関門はクリア。あの栓の威力がナナエの弾丸より上だった場合、弾の方がふっとばされて栓がナナエの身体に直撃してしまっていた。
「次っ!」
ナナエが気合を入れた声を上げたのと同時に、ビン破蓋の口から大量の液体が発射される。これに触れれば大やけどだが、
「破却します!」
いつもの決め台詞とともにナナエは発砲した。今度の目標はビン破蓋の口。つまり、ビンの内部に弾丸を撃ち込むのだ。口はかなり小さいが、ここで外すようなナナエではない。
見事にビン破蓋の内部に弾丸が突入する。しかし、入れ違うようにあの液体がナナエめがけて降り注いできた。
(代われ!)
「はいっ!」
ここでナナエから身体の主導権を切り替える。同時に俺の身体に液体がぶっかけられた。
「ふぐうううううううううううううう!」
わけのわからない声というか空気が俺の口から漏れる。全身が焼けるのを超えて溶け出す。てか、まだかよ!
ビン破蓋は硬い。ならその内部に銃弾を撃ち込めばどうなるかといえば、当然跳弾しまくっているはず。あとはそれが中にある核にあたってくれさえすれば――
そう考えていると、突然ビン破蓋がブルブル震えだして崩壊し始めた。どうやらうまく核にあたったらしい。
破蓋が消えたので俺にぶっかけられた液体も消えるはずなんだが、なんか焼け焦げた感じが治らないので、
「おじさん大丈夫ー!」
すっ飛んできたナナエがバケツに入った水を俺にぶっかけてくる。めちゃくちゃしみて辛いが、溶け続けるのはもっとゴメンだから仕方ない。
大体身体の痛みが引いてきたあたりで、ビン破蓋は完全に崩壊してさらさらとチリみたいになって消えていった。いつも大穴の底に落ちていくのしか見てなかったが、どうやら核を破壊すると霧散するようだ。
ここでヒアリが俺に抱きついてきて、
「おじさんすっごーい! 本当に破蓋さん倒しちゃったよ! でも大丈夫痛くない?」
「あ、ああ、大丈夫だ。もう傷が治ってるし痛みもだいぶ和らいでる。てか近い近い」
(ヒアリさん! おじさんにそんなにくっついてはいけません! 穢れますよ! というか私に身体を返してください!)
ナナエがキャンキャン吠え始めたのでとりあえず身体を返しておく。
「まったくもう……」
そう戦闘服を叩きながら立ち上がるナナエ。続けて、
「そういえばヒアリさんの方の破蓋は無事に破却できたんですか?」
「え? 大丈夫だったよ。何回も戦っていた相手だったから、折り曲がるところに核があるってわかってたし。できるだけ危険がないように近づいて倒しちゃった」
「ああいえ、そちらよりも、その今ヒアリさんについている方の破蓋がなにかなかったか心配なんです。破蓋と破蓋が直接敵として戦うという状況は例がないので、何が起きてもおかしくありません。人間の破蓋であるおじさんは状況的に比較できませんし……」
それを聞かれたヒアリはしばらくカーテン破蓋をさすっていたが、
「やっぱりなにか思うことはあるみたい。ただ仲間を想うとかそういうのは違うみたいだよ。そもそも破蓋さん同士は交流したり友達になったりしなくて、みんなバラバラに単独で行動するんだって」
なるほど……集団ではなく、独立した一つの個体として好き勝手やってるってことか。ただ、破蓋のボスである天蓋の指示には従っているのだろう。もしかしたら、あの従えという呼びかけはバラバラな破蓋をまとめようとしているのかもな。抗えの意味はわからないが。
ナナエも興味深そうにヒアリのマントになっているカーテン破蓋に触れようとするが、ビビってヒアリの後ろに隠れてしまった。ずいぶん弱気な破蓋に見えるぞ。
「大丈夫だよ、ナナちゃんはとってもいい人だから」
そうカーテン破蓋をさすって落ち着かせるヒアリ。しかし、ナナエは諦めて、
「構いません。無理に嫌がる相手に触るほうが問題です。それよりも目的地がわかったので現在位置を確認してから移動します」
「どこに行くのー?」
ヒアリの言葉に俺が答える。
(俺が死んだ場所だよ)
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