第180話 ビン破蓋3
「ナナちゃーん!」
俺がナナエと作戦を練っていると、ヒアリが手を降ってこっちに走ってくる。背中にはマントにしてあるカーテン破蓋もいる。
ナナエはしーっと口に手を当てて静かにするようにジェスチャーだけで伝えた。ヒアリもすぐにそれを察知して自分の両手で大げさに口を抑えてみせる。かわいい。
少し離れたところではビン破蓋がふらふらとゆっくり動き回っていた、どうやら俺達の姿を見失って探しているようだ。
ナナエはその様子をうかがいつつ小声で、
「そちらの方は大丈夫でしたか?」
「うん、大丈夫だよ。怪我をしないように慎重に戦ったからちょっと時間かかっちゃった、ごめんね」
「正しい判断です」
ヒアリはピンピンとしているようなので俺も一安心だ。
続けてナナエはヒアリにあのビン破蓋について説明する。中身に皮膚を溶かす液体があるためうかつに攻撃してはならないこと、栓を発射し、その後に液体を撒き散らしてくること。
「ふへー、困ったねー」
ヒアリはうーんと唸ってしまった。ふと、ヒアリのマントになっているカーテン破蓋も怖がっているのかヒアリにスリスリし始める。
「やん、もぅくすぐったいよぉ」
俺はビキビキと神経を浮かべながら、
(おい、この破蓋爆破していいか)
(非常に同意しますがヒアリさんが悲しむのでやめておきます)
ナナエもビキビキしながらこらえる。
と、ここでビン破蓋が突然またシャカシャカと上下運動を開始した。どうやらこっちの居場所がバレたらしい。
「下がります!」
「うん!」
すぐさま二人とも街の中を走りビン破蓋から距離を取る。一度発射体勢に入ると止められないのか、さっきまで俺達がいたところに栓が発射され、凄まじい勢いで建物を薙ぎ払っていった。その後、また液体が噴射されて周囲が水浸しになる。
ナナエはすぐさま建物の上に登ると、即座にビン破蓋を狙撃する。ビン破蓋は被弾の衝撃でバランスを崩してふらつくが、本体にダメージが有るように見えない。さらに栓が復活して、ビンの中の液体も元通りになりつつある。
「中になにか赤いのが見えたよ!」
「確かに見えましたね」
ついてきていたヒアリとナナエが言葉が一致した。なんか見えたか? 俺は何も気が付かなかったが。
狙撃したためこっちの位置もバレるわけで、またビン破蓋がシャカシャカし始めたので、ナナエとヒアリは走って破蓋から距離をとった。
轟音を唸らせた栓によって建物が薙ぎ払われる中、ナナエはふむと、
「やはり核はあの中にありますね。しかし、外からの攻撃は通じず、うかつに割ったりすれば液体が吹き出します」
(となれば俺の作戦しかねーわな)
「いいんですか? おじさんとはいえかなりの苦痛を受けると思いますが……」
(今更何いってんだよ。いつも木っ端微塵になったり灰になったりしてるだろ。どうせ俺にしかできない仕事なら俺がやるよ。そうじゃないと仕事が終わらないし)
俺とナナエの話を聞いてまだ作戦を聞いてなかったヒアリは不思議そうな顔をしていた。まあ細かい説明をしている時間はないので、さくっとヒアリに作戦の流れを説明する。
「おじさん大丈夫? 辛くない?」
(気にすんなよ。散々ひどい目にあってきたし、死ぬことはない。別にヒアリに協力してもらわなくてもいいはずだけど、ちょっとでも痛いのを和らげられればいいってだけだからさ)
「う、うん」
(じゃあ、ヒアリはその辺のバケツ――水が入りそうな桶を使って水を溜め込んでおいてくれ。終わったら俺にぶっかけてくれればいい)
「了解だよっ」
ヒアリは周囲に散らばっていた桶とかをかき集め、近くの川から水を汲み始めた。
ナナエは大口径対物狙撃銃の弾を補充しながら、
「おじさんも割と適正値が高いと思います」
(なんだそりゃ)
「自己犠牲心が結構あると思いますよ。よく話している仕事の経験談でも周りが大変そうだから自分が進んでやったりしたという話もありますし」
(そんなもんないぞ。俺は俺のためだけにやってるし、他人の助けになろうとも思ってない。金が貰えなきゃ即逃亡してるわ。それに俺しかやるやつがいないなら俺がやるしかないし。俺も仕事が終わって帰れるし)
「それも自己犠牲の現れだと思いますよ」
(そうかぁ?)
ナナエにそんな事言われるが、どうにもピンとこない。
まあそんなことはいい。さっさと今の仕事を終わらせよう。
「おじさーん、準備できたよー」
ヒアリが大量の水を抱えて手を振っていた。なぜかマントになったカーテン破蓋もばっさばっさと身体を震わせてる。
ナナエは大口径対物狙撃銃を構えると、
「では……行きます」
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