第179話 ビン破蓋2

「死ぬ! とにかくこの酸みたいなの洗い流さないと死に続けるだけだぞ!」

(川か池を探してください! そこに飛び込んでこの液体を洗い流すんです!)


 焼け焦げながら走り回ると近くに水路があった。しかし、見るからに汚いドブである。しかも、今は真っ赤な血みたいなものがだらだら流れていて気持ち悪い。


「ちょっと待て、あれに飛び込めってか!?」

(このままでは永久に溶け続けますよ!)


 ナナエにそう急かされる。くそったれめ!

 俺は意を決して血の川に飛び込む――


「――!!?!?!?!?!!!?!?!?!?!?!?!?!――」


 全身火傷状態で川に飛び込めばどうなるか。激痛を超えた衝撃が全身を駆け巡り声にならない悲鳴しか出せない。


 しばらくぶくぶくと血の川に沈んでいたが、やがて溶けるような痛みがなくなったのを見ると、川から軽くジャンプして近くの橋に上がる。


「死ぬ、ガチで死ぬ。というか病気になるわこんなの。いやその前にいくら我慢なれしててもこんなの精神が壊れる――」

(おじさん!)


 ナナエの声で俺は視界に集中する――


「げっ!」


 崩壊した建物の向こう側でまたビン破蓋が激しく上下運動をして、今まさにこっちに向かって栓を発射していた。崩壊した建物の瓦礫を吹き飛ばしながらこっちに飛んでくる。


 俺は慌てて身を捩ってスレスレのところで栓を避けた――が、さっきと同じくまた衝撃で一気にふっとばされてしまい、空中に放り出される。確かにシャンパンのk栓をポンッしたらすごい勢いで飛んでいくが、これはやりすぎだ!


(また液体が飛んできます! 避けてください!)

「空中でどうしろってんだ!」


 栓が抜けた後は瓶の中身が噴射される。さっきは完全に不意をつれてきちんと確認してなかったが、今回はシュワーと炭酸の液体がこっちに向かって飛ばされているのが見える。というか確かに炭酸飲料は歯を溶かしたりするとはいえ、硫酸みたいに解釈するのはやめろや。


 飛んでくるのが見えていてもヒアリのように空中で動けないので思いっきり液体を浴びてしまう。しかし、今はちょうどドブの近くにいたので着地した後に速攻で血の川に飛び込んで洗い流した。


「すぐに洗い流せばなんとかなるっぽいな、返すぞ」

(はい!)


 今回はあまり痛くなかったので、すぐにナナエに身体を返した。

 ビン破蓋は建物に遮られて姿が見えないので、すぐさま近くの廃墟の屋上に登って探す。すると、向こうもこっちの姿を見失っているのかふらふらと徘徊していた。

 ナナエは大口径対物狙撃銃を構えようとしていたが、


(そういや、そのでかい銃、さっきから破蓋の液体を浴びまくっていたけど大丈夫なのか?)

「元々頑丈ですし、神々様の力で強化されているのでそう簡単には壊れません」


 なるほど、と俺が思った瞬間にナナエは大口径対物狙撃銃を発砲した。キレイにビン破蓋の土手っ腹に直撃するが、簡単に弾かれてしまう。


 こっちから攻撃すると当然向こうもこっちの位置を把握できるので、また激しい上下運動を始めた。


「一旦下がります!」

(というか、中身を一回噴射したら終わりのはずなのに、なんであいつ何回も撃てるんだよ)

「中身も破蓋の一部扱いなのでしょう。なのでなくなれば損傷したのと同じ理由で直ぐに復元されるはずです」

(チート――反則にもほどがあるわ!)


 そんな話をしている間にまた栓が発射されて周囲の瓦礫を吹き飛ばしていく。続いて液体が噴射されてくるが、さすがに3度目を食らうナナエではないので、少し離れたところでやり過ごした。


 しかし、戦況は思わしくないと見ているようで、


「まずいですね。攻撃はかなり強力で、防御もかなり硬いです。私の攻撃ではあの破蓋の本体に傷を負わせることも出来ません。核が見つかればいいんですが……」


 ナナエは建物の陰から破蓋の様子を伺う。いつの間にか栓も中身も復活してこちらを探してふらふらしているようだ。隅々まで見ていても核の位置は特定できない。ビンにはラベルが貼られているので中身が全部見れない。恐らくビンの中に核があると見ていいだろう。


 となるとあのビンを壊さないといけないが……


(ヒアリなら多分あのビンでもまっぷたつにできるんじゃね?)

「却下です。ビンを割ったら中身の液体がヒアリさんに降り注ぎ、最悪命を落とすでしょう。私でもおじさんに変わってもらっても戦闘続行は難しくなります。つまり、あの破蓋を倒すためには遠距離から核を破壊する他ありません」


 ナナエのいうことは確かだ。しかし、大口径対物狙撃銃でもビンに弾かれてしまうのでは核を狙いようがない。爆弾でもあればそのへんに仕掛けて通ったところで爆破して割れるか試すこともできるが、あいにくナナエが持っているのは数個の手榴弾だけだ。明らかに火力が足りない。


 そんな話をしている間にビン破蓋はこちらに気が付き、またシャカシャカと上下運動を始めた。


 そして、こちらを向いて栓をぶっ放してくる……ん、なにかいま頭によぎったような……


「どうしたんですか!」


 ナナエが栓と液体の攻撃から避けながら俺の様子に気がついて聞いてくる。

 確証はないが……


「久々に不死身の必殺技を使うか」

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