第178話 ビン破蓋1
「私はこっちの方にを相手するね!」
ヒアリはホチキス破蓋に向かって構える。ふとここでナナエが不安気な顔で、
「ヒアリさん……大丈夫ですか?」
「どうしたの?」
不思議そうな顔をするヒアリに、ナナエはややいいづらそうに、
「その、破蓋との対話が可能で、現に今ヒアリさんと一緒にいる破蓋もいます。それなのに戦うというのは……」
その指摘にヒアリはちょっと考えてから、
「確かに破蓋さんと話ができるならしてみたいかな。でも今はナナちゃんとおじさんとこのかーてんちゃんを守ることが一番大事だよ。あっ、もちろん私も自分を大切にするからね。ナナちゃんとの約束だから」
そうニッコリ微笑む。かわいいなぁもう。
更に続けて、
「でも、あの破蓋さんたちにも声をかけてみるよ。ナナちゃん、心配してくれてありがとね」
「ま、まあヒアリさんの好きにやってください。任せます」
素直な礼を言われて少し赤くなるナナエ。
ふとここでカーテン破蓋がヒアリの周りをぐるぐる回りだした。なんだ一緒に戦いたいのか?
ヒアリはふと何かを思いついたのか、カーテン破蓋を自分の首に結びマントのように羽織る。
「これで一緒だよ」
ニッコリ微笑むヒアリが今日もかわいい。そして、破蓋の野郎が羨ましく見えるぜ。
「ここで怪我をしたらまともな治療はできません。自分の身の安全を第一に戦ってください!」
「わかったよ。すっごい気をつける!」
そういってヒアリはホチキス破蓋の方に飛び出していった。まあ何度も戦っている相手だから大丈夫だろう。
さて。ナナエはこちらに向かってくるビン破蓋に照準を合わせる。
「瓶が元になった破蓋は今まで何度も戦ってきました。しかし、攻撃の仕方が毎回違います。おじさんはなにかあの瓶を見てなにか感じることはありませんか?」
(前に戦った時はそのまま殴りかかってきたっけ。あの時とはビンの形状が違うのは確かだが……)
空き瓶を殴りつけるように襲いかかってきてすごい怖かった。でも核が底にまるだしだったので即座に倒すことができた。
しかし、ぱっと見た感じ、底には核がない。中身になにかの液体がはいっているように見えるので空き瓶ではない。あと入り口にコルク栓みたいなのが詰まっている。
(空き瓶じゃないから前回とは別物だろう。ただそれだけだとわからんな)
「わかりました。では牽制して破蓋の出方を伺います」
ナナエは大口径対物狙撃銃を構えて、発砲した。一発だけだったが、きれいにビン破蓋に命中した。
が、あっさり弾き返されてしまう。そういや空き瓶のときもずいぶん硬かったな。核がビンの中にあると厄介なタイプだ。
「やはり硬いですね――え?」
ナナエが間の抜けた声を出してしまったのは突然ビン破蓋が激しく上下運動を始めたからだ。震えたり攻撃してきたりする動作ではない。本当にビンを振るような動作をしている――ちょっと待て。
俺は脳裏によぎった情報をまとめる。ビン、中身に液体、コルク栓、野球の優勝チーム……
(シャンパンファイトだ、伏せろ!)
「しゃんぱんふぁいとってなんですか――」
ドジッた。ナナエに通じない言葉を言うと反射的に聞き返してしまう。
そうしている間に十分に自分を振りまくったビン破蓋が急にこちらに口を向けた。
そして、ポンッという乾いた音とともに凄まじい勢いでコルク栓が発射される。
だが、ナナエは間一髪のところで横に飛び跳ねてかわそうとした。これはもう長年の戦いによる反射的な回避運動なんだろう。
が、
「――――っ!?」
すぐ横をコルク栓がすっ飛んでいったと思いきや、猛烈な衝撃がナナエの全身を襲い、あっさりふっとばされてしまった。
ナナエはなんとか空中に漂っているときに身体のバランスを取り直して、きれいに着地する。
「今のはなんですか!?」
(あのビンに入っているのは炭酸飲料なんだよ! それを振ると中で炭酸みたいなのがたまってフタがビンから飛び出す――)
「うへあっ」
俺の説明の途中で突然ナナエが変な声を上げる。気がつけば、ビン破蓋の開いた口からすごい勢いで液体が噴射され、ナナエの頭の上から降り注いでいる。
ふとナナエは自分の手を見てみる。そこには蒸気が出て、次第に皮膚が赤く変色していく手が――
(代われっ!)
「は、はいっ!」
すんでのところで俺が身体の主導権をナナエからもらう。
今の液体を浴びた場所の反応を見る限り、恐らく強力な酸だ。危うくナナエの全身が大やけどするところだった。とはいっても今は俺が体を動かしているわけだから、
「ぎええええええええええええええええええええええ!」
全身焼けこげそうな痛みに悶ながら走り出す。死ぬほど痛い。しみる熱いし変な匂いまでして気持ち悪い!
ふと手のひらを見ると、皮膚が溶けたかと思えば、ナナエの不死身パワーで一気に修復するのを繰り返していた。治るが、この全身についた酸を払わない限り、また皮膚を溶かし始める。
無限地獄かこれは!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます