第177話 敵地
「まずいですね……」
ナナエは装備品をチェックしながら唇を噛む。持ってきていたのはナナエが愛用する大口径対物狙撃銃。そして戦闘服のポケットに入っているいくつかの弾倉、あと腰の拳銃とナイフぐらいだ。特に弾がやばい。いくら銃を持っていても弾がなくなれば使いみちがなくなり、破蓋を倒すのが困難になる。
一方のヒアリはいつもの鉈二本だけ。しかし、スーパー英女のヒアリさんならそれだけで十分なので頼れる存在だ。
「ヒアリさん、破蓋の数や規模、位置はわかりますか?」
「ううん、この破蓋さんが近くにいるって教えてくれたんだよ。でも、細かいことまでわからないみたい……ああっ、そんなに落ち込まないで、少しの情報でも私達にとってはすごい役立つことだから、よしよし」
ヒアリはそうカーテン破蓋のさすって慰める。かわいいけど相手が破蓋なのが複雑だな……
ふと俺は気が付き、
(そういやそのカーテン破蓋、半分しかなくてこっちには核がないんだろ? なんでヒアリに懐いたんだ?)
「かーてんってなんですか」
横からナナエが割り込んできたので、
(なんと言っていいのか……ほら、窓から光とかが入ってこないように吊るしてある布というか)
「すだれですか? ちょっと違うように見えますが」
すだれってあの竹でできた古風で和風なあれだろ? そうじゃなくて、
(もっと布っぽいものだよ。教室にもあっただろ)
「ああ窓掛けですか。確かにあの破蓋にそっくりですね」
ふむふむと納得するナナエ。話が脱線していたので気を取り直して再度ヒアリに聞いてみる。
「さっき一緒に飛んでいたときに気がついたんだけど、このかーてん破蓋さんちゃんと核があったよ? この白いところの間に、ほら」
ヒアリに促されて『防炎』マークがあった白いタグを見る。すると、隙間のところに赤くて小さい核があった。
(おいおい、カーテンは二枚セットでこっちの破蓋には核がないって先生はいってただろ)
「嘘っぱちだったのでしょう。まんまとやられてしまったようです」
そうナナエはため息をついた。あの先公め、俺らの核探しを妨害するためにわざとガセ情報を俺達に伝えてきたってことか。俺らもあの状況だったから考える余裕がなかったからすぐに信じちまった。人が嫌がったり騙したりと口が達者なやつだ。
「だから、かーてんちゃんは私の話を聞いてくれたんだよねー?」
そう言ってカーテン破蓋をナデナデしているヒアリ。まあ核は命というか頭脳っぽいからヒアリを気に入ることができたんだろう。
ナナエは大口径対物狙撃銃を手に持ち、
「とにかく破蓋の位置を確認しましょう。どこか高いところから――」
「ナナちゃんどーぞ。近づいてるけどまだ距離があるみたいだから今のうちに食べておいたほうがいいよ」
そう言ってヒアリが回収してきた物資の中から、お茶のペットボトルと缶詰を渡してきた。
「お腹が空いていたり喉が乾いてたらちゃんと戦えないよ。せめてちょっとだけ安も? 」
(腹は減っては戦はできぬというからな)
「仕方ありませんね……」
ナナエは一旦大口径対物狙撃銃を置くと、一気に水を飲み干し、器用にナイフで缶詰を開く。中身は黄桃だったので、ヒアリと半分ずつ食べた。
「おじさんの世界の食料というので問題があるのではと思いましたが、私達の世界と大差ないようですね」
「この桃さんおいしー」
ストレートにうまいというのを顔に出すのは嫌なのかまあまあだなという感じのナナエと、心底幸せそうに食べているヒアリ。
「さて」
腹ごしらえを終えた俺らは破蓋の場所を確認する。まず近くのビルの屋上に飛び乗るが、瓦礫だらけで危なっかしいので、慎重に移動した。
そこからあたりを見回すが、不気味なほど暗い夜空と破壊された町並み以外はなにもない。
「こういうときはいつも携帯端末からの情報に頼りすぎていたことを痛感します」
ナナエは破蓋を目視だけで探そうとするがそう簡単には難しい。
それで悪戦苦闘するかと思いきや、
「あっナナちゃん。後ろの方から迫ってきてるっ!」」
ヒアリに言われて振り返ってみれば、破蓋が浮かびなら地上スレスレに浮かびこちらに向かってきていた。形状はビンになっている。
さらにヒアリが何かを見つけたらしく、
「こっちからも!」
そう言ってナナエの視点も確認に入る。
こっちはホチキスの形をしている。何度も大穴で浮上して戦っているがそんなに脅威ではなかったはずだ。
ここで俺はふと思いつき、
(なあ、あの破蓋もヒアリが説得したら仲間にできるんじゃないか?)
ヒアリは何やらカーテン破蓋と話していたが、やがてささっとカーテン破蓋がヒアリの背中に隠れてしまう。
「あれは無理だって言ってるよ。もうとっくに心も身体も『抗う』ことしか考えてないって」
抗う。破蓋のボスである天蓋が呼びかけていると思われる言葉。従うのは天蓋にだろうが、未だに抗うの意味がわからん。もしかしたら、カーテン破蓋に聞けばわかるのかもしれないが、
「細かい話は後にしましょう。今はあの破蓋の破却を優先します」
ナナエは大口径対物狙撃銃を構え、
「では……行きます!」
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