第176話 里帰り2
「ナナちゃーん、ちょっと行ってくるねー」
カーテン破蓋に乗ったヒアリが空中に浮かび、近くの大きな建物に向かう。
ざっと見回す限り、建物はみんな破壊されて廃墟になっていて、コンビニでちょっと飲み物を買うみたいな状況じゃない。なので、まずは当面の水と食料を確保しなければまずいと考えた。
そこで周囲を見たところ、前に派遣されたことのあるコンビニの物流倉庫と同じマークがついた建物を発見。入り口とかがめちゃくちゃに破壊されていたので、ヒアリに大穴の空いていた天井から中を見に行ってもらっている。
「何があるかわからないので、私のついていくべきなのですが……」
ナナエが不安げにヒアリの姿を追っている。さっきは俺達を乗せてくれたカーテン破蓋だったが、その後はやっぱりヒアリ以外は乗せたくないみたいな素振りを見せていたのでヒアリに任せることにした。ヒアリ的にもカーテン破蓋が嫌がるなら無理強いをするようなことはやりたくないだろうし。
まあそんなこんなで俺達はここで待機中だ。
(はあ~)
「なんですかため息なんてついて」
(ちょっとショックを受けててな)
「ショックってなんですか」
(こう衝撃を受けて落ち込む感じの)
「はあ。で、何に落ち込んでいるんですか――ああいえ、自分の世界が滅んでいたんですから、気が沈むのは当然ですよね。すいません、野暮でした」
(いやそれはどうでもいいんだが)
「えぇ……」
ドン引きされてしまった。さらに額に指を当てて、
「いえ、おじさんにもご友人やご両親がいたのでしょう? それが――その、こんな自体になってしまっているので衝撃をうけるのは当然だと思うんですが……」
(友人なんていないし。親ともずっと顔どころか連絡もしてないから声も忘れたわ。底辺で日銭を稼ぐだけで手一杯だったからそれどころじゃなかったし)
「……どうしてこのような人間が生まれてしまうのでしょう。世界の悲劇ですよこれは」
そう頭を抱えてしまうナナエ。だがすぐに頭を振って、
「で、何に衝撃を受けて落ち込んでいたんですか」
(どーでもいいと思っていた世界が滅んでなんか落ち込んでる自分に落ち込んでる)
「もう嫌ですこのおじさん」
またしゃがみこんで頭を抱えてしまった。うるせーな。底辺生活が長すぎてもっといろいろこう一般人的な常識を超越してしまった俺!みたいなのだと思っていたら思いの外凡人みたいな反応になっているからショックなんだよ。
ナナエはやれやれといいつつあたりを見回し、
「……しかし、破蓋が地上に出るとこのような事態になるんですね」
周辺は民家やビルの残骸が立ち並んでいる。それも普通の壊れ方ではなくまるで破裂して爆散したみたいな壊れ方をしていた。空は薄暗く太陽は見えない。一方で星はかなり見えるので夜のように感じるが、どういうわけだか周囲はむしろ明るくて昼間みたいに視界が開けている。近くを流れるドブ川は真っ赤な水が流れているし、血の池みたいで気持ち悪い。
先生は俺のことを『解放された領域』から来たと言っていた。ってことは、恐らくこれが破蓋によって侵略された俺のいた世界ってことで間違いないだろう。
(そういや俺が死んだ時は大地震が起きて建物が崩壊して押しつぶされたが、もしかしてあれが破蓋の攻撃だったのかもしれないな)
「有り得る話です。しかし、おじさんの話では何も予兆がなく突然破蓋が現れたように聞こえます。私の世界では破蓋が侵攻してきたとき、まず大穴ができてそこから浮上してきたという形でしたので、いきなり全世界が破滅ということにはなっていません。何か事前に変化などはなかったんですか?」
(うーん……)
ナナエの指摘に俺は当時のことを思い出してみるが、特に何もなかったはずだ。あの時は昼飯食った直後だったので、直前までコンビニで買ってきたパンと茶を飲みながらスマフォでニュース眺めていたから、人類滅亡クラスのやばい事件があれば速報で流れてきていただろう。
(いや何もなかったな。いきなり地面がグラグラしはじめて建物がぶっ壊れただけだった)
「そうなると……ありえるのは一番最初に破蓋が出現したのがおじさんのいたところ、あるいは大穴に類するものがそこに出現したのかもしれません」
(あーなるほど)
確かにナナエの仮説なら何の予兆もなくいきなり大惨事に巻き込まれたことも説明がつく。さらに、
「私達は大穴を通っておじさんの世界に来たので、戻るためには再び大穴から戻るしかありません。おじさんの死んだ場所に大穴がある可能性があるのであれば、まず目指すべきそこでしょう。ここからの道はわからないんですか?」
ナナエにそう言われたものの、現在地はさっぱりわからん。ぶっ壊れた建物の残骸ばっかりで景色も変貌しすぎている。日本なのは間違いないだろうが……
(とりあえず現在地と地図がわかれば、多分案内できるはずだ。その辺ちょっと探してみるしかないな――)
「ナナちゃーん!」
ここで唐突にヒアリの声がしてきた。見上げればカーテン破蓋に乗ったヒアリがこちらに飛んできている。大きな袋をもっているので食い物を見つけられたようだが、声は緊迫している。
「破蓋さんがこっちに向かってるって!」
ヒアリの言葉に俺は舌打ちする。相変わらず嫌なタイミングで来る連中だな。
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