第172話 多分同じだ
先生の言葉を聞いて大体納得がいった。ようは過去に嫌なことがあったから消えてしまいたいってことだろう。
しかし自殺することもできず、それならいっその事世界が滅んでくれりゃいいのにって感じか。ソシャゲをやめたくてもやめられないから終了してくれと同じノリで人類滅亡を望まれても困るぞ。
先生の絶叫を聞いたナナエはやや戸惑いながら、
(私達が可能な限り手助けしますと言ってください。そうすれば先生もきっと――)
(馬鹿言うな。大人ってのはそれ相応にプライド――誇りが高いんだよ。子供から助けてやるなんて言われたら逆にキレるぞ)
(だからといってほっとけるわけ無いでしょう!)
ナナエに諭されるものの、どうすりゃいいんだ。
「先生! 私、先生がどんな辛い目にあったとかわかるなんて言わないよ! でもでも! きっとみんなで幸せになれる方法があるはずだよ! だから――だから私達を頼っていいんだよ!」
ヒアリも必死に叫んでいる。だが俺は先生の歪んだ目を見て確信した。こいつは駄目だ、壊れちまってる。とっくの昔におかしくなってそのままだ。それ相応の苦痛を味わった末なのは理解できる。だが――
「いや、その気持ちわかりますよ。俺も嫌なことを思い出して『うんこ!』とか突然叫びたくなりますからね。でも……」
ゆっくりと先生に近づき、
「他人を巻き込んじゃだめでしょ。そういう嫌な思い出に対する苦悩みたいなのは自分か、気心の知れた相手と一緒に消化しないと」
そう言ってみるが、先生は反応しない。
くっそ。こういう駄目になった人間は底辺で何度も見てきてた。俺は慣れっこ――関わりたいたいとは思わない――だが、ナナエとヒアリにこんなのの相手をさせたくない。今でもクソ大変な目にあってるんだから、世界の汚れみたいなもんでさらなる気苦労をかけたくはない。
仕方ない。俺がやるしかないだろう。これ以上先生の話を聞くのは無駄だ。なんでもいいから捕まえて大穴の外に連れ出す。今の所破蓋の姿は見当たらないが、いきなり現れて大穴の外に出てしまったりしたら人類滅亡だ。
「とにかく一旦外に――」
俺が手を伸ばした瞬間だった。突然タオルケットみたいなのを身に着けたまま先生が立ち上がり、逆に俺の手を掴んだ。
――その瞬間。
「おじさん離れて!」
突然ヒアリがすごい勢いで俺達の間に割って入ってきた。そして、俺と先生を引き離そうとするが、ガッチリ握られているのでできない。てかガチで痛い!
「神々様がここに破蓋さんがいるって! 離れないと!」
「破蓋!? どこにだよ!」
ヒアリの言葉に俺が意味がわからんと困惑したが、すぐに気がつく。先生が身につけている毛布だかタオルケットだかわからないものに、なにかがついているのが見える。
服とかに縫い付けられているタグと同じものがある。そこには【防】という赤い文字。
すぐに俺は思い出した。あれは確かカーテンだ。火事が起きても燃えないのが売りの防炎仕様のものについていた。そして、浮上してきていた破蓋はひらひらの紙か布のもの。
「カーテン破蓋!? でもなんで先生にくっついてるんだよ!?」
俺は仰天してしまう。カーテンの破蓋がいてもおかしくないが、破蓋は人間を見つけると即殺しにくる。なのに先生には全く手を出してない。なぜだ?
(おじさん、一旦先生から離れてください!)
「わかっちゃいるが、離してくれねえんだよ!」
ナナエの指示に従いたいが、腕がへし折れそうなぐらいきつく握られている。人間の握力とは思えない。
ここでヒアリが鉈を振りかざし、
「私が!」
先生から離れられないのなら、破蓋を倒してしまえばいいと考えたのだろう。一気に斬りかかろうとするが、すぐに鉈の動きが止められる。
「――――っ!?」
ヒアリと俺が驚愕する。突然先生がその鉈の刃を受け止めていた。それも素手でだ。
「……捕まえた」
先生の顔は狂気に染まっていた。目も充血し顔色も悪く、もはや人間とは思えない。というか俺の手を掴んでいる力とヒアリの一撃を受け止めるとか絶対に人間じゃない。
「なんで……破蓋さんが2つ……そんな……先生が、なの!?」
さらにヒアリは驚愕に悲痛さの混じった声を上げた。破蓋の反応が2つ。片方はカーテン。もう一つは先生。
先生が破蓋。つまりこいつは――俺と同じ人間の破蓋だ。
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