第169話 いつものようにみんなで
唐突な破蓋の浮上に俺達は慌てて装備を整えて、大穴に向かった。走りながら端末に送られてきた破蓋の映像を確認する。
「敷布?」
「私はでっかい紙に見えるかなぁ」
ナナエとヒアリが言うように映像にはひらひらとしたでかい布か紙のほうなものが映っている。
「どちらにしろ過去に出てきた形状にはありません。新型でしょう」
(先生を探さないといけないのに、破蓋は空気読めやといいたいね)
「同感ですが、向こうはそんな事情なんて気にしてくれませんよ」
地上から大穴に降りる昇降機に乗りながらナナエはため息をつく。まあそんなんだろうけど愚痴りたくもなる。
ちなみになんでこんなに急いでいるのかと言えば、送られてきた情報が大穴の最深観測所ではなく第6層のすぐ下にある監視所からのものだったせいだ。理由はわからないが、破蓋がいきなり第6層に出現したことになり、俺達がつく頃には第3層までたどり着いている可能性がある。一刻の猶予もない。
第1層につくまでの間にナナエとヒアリは装備をチェックしている。ナナエはさておきヒアリの顔をちらりと見るといつもどおりに感じた。
その視線にヒアリは気が付き、
「あっ大丈夫だよ? 今は破蓋さんが来ちゃってるからそれをやっつけることしか考えてないから。これを失敗すると人類滅亡になっちゃうし、いつもどおり頑張るだけ。でもでも、ちゃんといつもどおりすっごく気をつけるからね」
そうニッコリと答えた。かわいい。この世界に天使がいたのならヒアリという名前がつくのだろう。
「気持ち悪いので蒸発してくれませんか」
(かわいいという感情を素直に口にしたって犯罪にはならん)
ナナエが心底嫌そうな顔をしているが一蹴しておく。
そして、昇降機を降りて第1層に出てからナナエが異変に気がつく。
「破蓋の……反応が消えました」
「私の方も消えてるよ」
ヒアリも確認して携帯端末の故障とかではないのがわかった。さっきまで第4層を浮上し続けていた破蓋の反応が綺麗サッパリ消えてしまっている。どこいきやがった?
ナナエは暫く考える。
「最深観測所で観測されず、さらに第4層に来てから反応が消える。このような破蓋は初めてです。浮上速度から考えてもまだ第3層に到達していないと予想できますが、途中から速度を上げてくる例はたくさんあります。無理に降下して途中で攻撃されれば危険です」
(じゃあここで待ってるか?」
「最後の手としてここで待ち伏せするのが確実でしょうけど、第1層での迎撃は失敗すれば大穴の外に破蓋が出る危険性が高いのであまり取りたくはない手段です。むむむ……」
結論が出ないナナエだったが、その間にヒアリはどこかに電話をかけはじめて、
「ナナちゃん代わってって」
「え?」
そう言って電話を受け取った途端に、
『ウィ!ウィ!ウィ!ウィ!』
『こっちのことを忘れて話を進めようとすんなと言ってます」
ミミミの怒鳴り声とマルの通訳が聞こえてきた。でかい声でしばらく耳が痛かったが、
「そちらはもういいんですか?」
『まだ生徒会室にいますが、そちらの情報をすぐに確認できるように端末を揃えてもらいました。ここからでもできることはします』
『こっちもちゃんとできることはするからさー。必要なことがあったら言ってくれよな」
『いつもの通りだ。全員で倒すぞ。破蓋のクソをギタギタにしてやるぜ』
工作部たちが騒いでいる。そうだな、今回もいつもどおりに破蓋を足してさっさと家に帰ろう。
「現状ですが、浮上してきた破蓋が第4層付近で反応が消えました。また最深観測所でも確認されていません」
『そのことはこっちも調べ済みだ。まず最深観測所で観測できなかったんじゃない。最深観測所が破壊されてんだよ』
「破壊……!? 破蓋から攻撃を受けたんですか?」
『いや、はっきりとしたことはいえねえが、わかっているのが壊されたのが破蓋の浮上の一致してない時間だ。どうみても破蓋が来るより前に壊されてやがる』
「……!?」
「そんなことって……」
ナナエとヒアリが唖然とする。最深観測所ってことは常に破蓋と戦う最前線のものだし壊されるなんてたびたびあるとかナナエから聞いたことがあったが、驚いているのは壊したのはどうも破蓋じゃないってことのようだ。
もちろんそんなところまで降下できるのは英女だけ。しかし、英女は現在ここに二人共揃っている。一体誰がどうやってだ。
ミミミはさらに続けて、
『消えた破蓋はどこに行ったのかわからねえが、映像記録から第3層の少し下にはまだ現れてねえ。ならそこまで降りても大丈夫なはずだ、ただ――』
ミミミは一旦言葉を止めた後に、
『第3層に誰かがいるみてえだ』
「!」
ナナエの口が閉まる。ヒアリは珍しく顔を引き締めていた。
ここで風紀委員のクロエが代わり、
『大穴に入るまではすべて監視しているけど生徒が入った様子がないのよ。おそらく生徒とかじゃいわ。おそらく……』
「……先生ですね」
ナナエが確信する。破蓋が来ているのに一体何しに来てやがんだ? そもそも監視に気が付かずに第3層に降りてる?
(嫌な予感がするな)
「ですね」
俺の言葉にナナエが同意する。
またミミミが電話に代わって、
「第3層まで降りても大丈夫だ。ただ先生には気をつけてくれよ」
「わかってます」
ここで電話を一旦終える。
そして、ナナエとヒアリは一気に第3層まで飛び降りていった。
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