第168話 できないやつ流
保健室に行っていたはずのミミミが俺達のところにスタスタと歩いてきている。さらにその後ろにはマルとハイリ、さらに少し汚れ気味のクロエまでいる。上からジャージみたいなものを羽織っているが、ややつらそうな顔をしているのを見ると、やはり怪我をしているようだ。大丈夫なのか?
そして、ちょうどナナエの隣についたのと同時にピンポンパンポーンと校内放送が流れ始めた。
『えー、生徒会長からの連絡です。校舎内で爆発事故が起きました。原因はいつものように工作部の人たちがやらかしたせいです。すぐに生徒指導指導室に連行するので安心してください。けが人も出てません。あと爆発現場の消火作業と後片付けは執行部で行うため、生徒たちは通常の授業に復帰すること。以上』
生徒会長からの指示により生徒たちはぞろぞろと教室に戻り始める。あちこちで「なーんだ」とか「けが人とかでなくてよかったねー」と声があがっている。たまに俺らに向かって「大丈夫ー?」とか呼ばれるが、ハイリがにこやかに笑顔で手を振りつつ、
「大丈夫だぞー。次は気をつけるから安心してくれよなー」
「次とかいわないの――あたたたたっ……」
クロエがいつものように突っ込もうとして痛みで言葉を止めてしまう。やっぱり怪我しているじゃないか。
「大丈夫ですかっ」
「大丈夫ー?」
ナナエとヒアリがクロエのところにいくが、クロエはやや疲れた顔で、
「平気ではないけど、大丈夫よ。右手の一部に爆弾に仕込まれていた破片が刺さったみたいで結構痛いのよね。でもけが人ゼロってことだから、素振りも見せられないし、やれやれってところよ」
「ウィ! ウィーイ!」
「早く連行しろと言っています。ここにいても仕方がありませんから」
ミミミの言葉をマルが通訳する。これクロエはこらえつつ、持っていた縄で工作部三人をしばり、
「じゃあ生徒指導室まで逝くわよ」
「ウィウィ」
「さっさと行くぞと」
「おー、出発進行ー!」
そう言いながら工作部を連れて行こうとする。しかし、ナナエが横に立ち、
「納得できません。爆弾を部屋にしかけていたのは先生です。工作部の人達は何もしていません。これではただの冤罪です」
そうクロエに抗議する。だがクロエは首を振って、
「これは全員で出した結論よ」
「んだよ、俺らが俺らの意思で冤罪を被ってやるってことになってんだ」
クロエとミミミの素の口調でそう言われるものの、ナナエはやはり納得いかないのか顔をしかめたままだ。
これにミミミは気にすんなと、
「先生が爆発を起こしたとか言ったら生徒たちが動揺するだろ? 穏便に解決するためにはあたしらが爆弾を使っちまって謹慎処分、負傷者無しで終わるという筋書きが必要だ。犯人も原因も負傷もなし、生徒たちは何も不安に思わないだろうよ」
「しっしかし……」
食い下がるナナエにミミミは肩をすくめて、
「あたしらはしょっちゅう爆弾を作っていろいろ爆破してたからな。あたしらがやる爆破は日常茶飯事なんだよ。だから今日も日常の中のよくあるちょっとした騒動。すべてはいつもどおり。せっかくあたしらにたくさんの汚名が貼られてるわけだし、それを利用しない手はねえだろ?」
ぐっと親指を立ててにっこり笑顔のミミミ。だがマルは肩を震わせて、
「私としては不満がありますけどね……! とはいえ、ミミミさんの頼みです。私の意見はここでは一回飲み込んでおくことにします」
「あたしらは適正値が低いから普通に英女として戦ったり学校運営を手伝ったりすることはできねえ。だからまあ、こういうあたしらにしか出来ないことはやっておきたいんだよ」
ミミミの言葉にナナエは全く反論できずに引き下がる。そして。生徒会室へと連行されていった。
(くそったれめ)
俺は毒づく。あの先生はミミミたちを狙い、あわよくば生徒たちにも同様を広がらさせ適正値を下がらせ、英女としての資格を奪うつもりだったのかもしれない。悪意だらけの作戦だ。
ここでヒアリは足で走りたいポーズになり、
「行こっ! 私もミミミちゃんたちと一緒にいたい!」
(まあ待てよ。ここで俺らがあいつらについていっても全く意味がないぞ。そわそわしながら部屋の外で待ってるだけだ。ミミミのやつが言っていたように俺らがやれることを先にやったほうがいい)
「私はミミミさんと同じ気持ちですが、おじさんの意見にも同意です。このまま先生を放置すればさらに大惨事を起こす可能性がありますので、先生を探す方を優先したほうがいいです。ヒアリさんはどうしますか?」
ナナエの説明を聞いたヒアリは一瞬考えていたものの、
「わ、わかったよ。私も先生を探しに行くっ!」
そう笑顔だが拳に力を入れながら答えた。
さて、これから先生探しをしなけりゃならんが、どこにいる?
そう俺が考えていたときだった。ナナエとヒアリの携帯端末から例の不吉な音楽が流れ始めた。
「こんなときに……!」
ナナエが携帯端末の画面を見ながら唇を噛む。破蓋が浮上してきたのだ。
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