第166話 仕事の順番は大事

「でも当時の生徒会や風紀委員を含めた執行部の人間は先生から違和感を感じていた。落ち込んでいるように見える一方でなにか――表現しにくいが、確信を持っているような顔をしていたと」


 当時でもやはり適正値の低い連中の集まる執行部のほうが先生の違和感を感じやすかったってことか。


「その後はすでに知っているように退学に抵抗して武器を持って学校に立てこもり。執行部としては強引に排除すべきという意見が多かったけど、適正値の高い英女候補生たちは先生はずっと血の滲むような苦労をしてきたのだから、と学校に残ることに賛同した。結果として破蓋との戦いに赴く英女候補生たちの意見が通り、そのまま先生は学校に残った。聞けた話はここまで」


 そういって生徒会長は話を終わらせる。

 ミミミは目を閉じて腕を組み黙ったままだったが、


「今の話で気になるのは一週間大穴の下の方にいたってところだな。先生が破蓋側につくとしたらそのときぐらいしか考えられねえ」

「その後に破蓋側から接触があった可能性も否定出来ないんじゃ?」


 クロエの疑問に対して生徒会長が首を振って、


「絶対にないとは言えない。ただ記録上、先生が英女をやめてから大穴に入ったことは一度もなかった。大穴から破蓋が出てきたこともない」


 この話を聞いているときにふと気がつく。ナナエがヒアリの方をチラチラ見ている。ヒアリは居心地悪そうにもじもじしていた。さっきと同じく先生が一方的に悪いような言い方をされているのにどうしたらいいのかわからないのだろう。生徒会長の話で先生の怪しさが増しまくってるが、それでも先生の本心を聞きたいと考えるのがヒアリだろうし。


 俺はできるだけ声を小さくして、


(とりあえず話の流れを変えとけよ。ヒアリがかわいそうだぞ)

(そう言われてもこの状況でどうすればいいのか……)


 ナナエはどうしたもんだかと考え始めたので、


(面倒だから変われ。俺が話す)

(余計なことは言わないでくださいよ)


 俺はナナエから身体の主導権をもらうと椅子から立ち上がり、


「とりあえず――なんですけど、ここで議論ばっかりしていても話が進まないので先生を見つけ出して直接話しを聞こう――聞きませんか? そもそも俺、じゃなかった私達は先生と話をしにきたわけで……新しい情報はありがたいんですけど、やっぱり最初に決めたことをやっておきたいんですよね」

(なんか話し方が変ですよ。ちゃんとまとめて話してください)


 ナナエからツッコミが入るが無視して、


「いやホント、途中で作業を中断するのはやばいんですよ。ブツの仕分けをせっせとやってたら検品に呼ばれて、しゃーないから検品終わらせて帰ってきたらその前の作業のことを忘れてて放置してしまい、次の仕事を始めてしまうとかよくあるんで、やっぱり最初に始めたことを終わらせてから次の作業をすべきだと考えるんですよね」

(確かにおじさんの言うことには一理ありますね。最初に始めたことをきっちり最後までやるほうが効率がよく、また集中力も身につきます)

(だろ? それなのにあっちからこっちからと呼ばれまくって集中できやしない)

(それはおじさんの効率悪さやお人好しさの問題で――)

「……何の話をしているの?」


 俺の経験談でナナエと話をしていたらクロエからツッコミが入ってしまう。周りを見ると工作部の連中が胡散臭そうな視線を見せていた。どうやらナナエではなく俺が話していることをすぐに気がついたらしい。


(やっぱ変わってくれ。俺には荷が重かった)

(全く仕方のない人ですね……)


 呆れているナナエに身体の主導権を返す。そして、俺の話に続けて、


「とにかくまずは先生を探すべきです。先生の正体を突き止めるにしても、今のままでは埒が明きません」

「もし先生が本当に破蓋と通じていた場合、あなたはどうする?」


 生徒会長から問い。ナナエは少しだけ考えてから、


「正座させて私の苦労話と死んでいった仲間たちの話をすべて聞かせます。そして、手を切るように説得します」


 答えは明確明瞭だった。こいつのこういう時の意志の強さは本当にすごいと思うね。

 横でこれを聞いていたヒアリがクスクスと笑いだし、


「そうだね。私も先生と話がしたいよ。それでナナちゃんがすごい頑張っていることを話したいかな」


 そう笑顔で話す。一方でバツの悪い感じになったクロエは、


「そうね……ごめんなさい。無駄な時間にしてしまったわ」

「いえ、生徒会長の話は貴重でした。ありがとうございます」


 ナナエがそう礼を述べるのと同時にミミミが立ち上がり、


「ウィ!」

「では、私達は先生の部屋に向かいます。すでに先生はどこかへ行ってしまったようですが、あの部屋に何らかの手がかりがあるかもしれませんので」

「じゃあいくかー」


 一緒にマルとハイリも立ち上がる。

 クロエも立ち上がり、


「私もついていくわよ。大騒動とか起こされたらたまらないからね」

「私は内外の情報を使って先生の行方を追う」


 そう生徒会長も相変わらずこちらを見ないままで言った。


 さて、仕切り直しだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る