第164話 駄目だから気がつける

「んで、一体何があったのよ」


 俺たちはクロエに連れられて生徒会室に入る。先生の部屋よりも上の階でかなり離れた場所にある小さな教室だ。


 そこの大きな机を囲うように座らされる。一方の工作部はこっそりと逃げようとするが、


「ほら、さっさと座る!」


 そう強引に椅子に座らされてしまった。ミミミたちがぶーぶー抗議の声を上げるが、


「これは連行とかじゃなくてちょっと話を聞きたいだけ。なんか厄介事を起こされたら大変なのは私達なんだから」

「……ウィ」

「ダダでは教えないと言ってます」


 腕組みをして口をへの字に曲げるミミミを通訳するマル。いつも問題を起こす不良集団とそれを取り締まる風紀委員ってことでやはり関係はよろしくないようだ。

 ここでナナエが割って入り、


「私が事情を説明します――がその前にあの人はなんですか?」


 そう言って窓際でこちらに背中を向けたままずっと経っている女子の方を見る。黒くて長い髪を頭の上のほうで一つに結んでいる――ポニーテールとかいう髪型で後ろから見ただけでも気品に溢れかえっているのがわかった。

 クロエはあはははと苦笑いしつつ、


「ああ会長よ、生徒会長。いつもあんな感じだから気にしないで。あんたらの事情について知りたいから一緒にいるだけだから」

「ああ……いえしかしなぜ立っているんです。座ればいいのでは」

「あの人はいつもああだから。顔を見ようと思わないほうがいいわよ。鉄拳が飛んでくる」

「えぇ……」


 引いてしまうナナエ。なんだ顔でも見られたくないのか? この学校は変人ばっかりだな。


 ナナエは気を取り直しつつ、


「実は……」


 大穴の底近くに落ちたこと、破蓋がまるでこちらの情報を握っているとしか思えない連携攻撃をしてきたこと、携帯端末を通してこちらの動きを入手して破蓋側に伝えている可能性についてなど。


 その話を聞いていたクロエは最初何をバカなという反応だったが、ミミミたちが調べてきたデータなどを詳細に説明しはじめてから顔をしかめ始め、


「……確かに状況証拠は揃ってるわね」


 困惑して口を抑えてしまう。

 ナナエも頷いて、


「まだ絶対の証拠はありません。しかし、私達が経験したことをつなぎ合わせると先生が破蓋とつながっているとしか思えないことが多いんです」


 だが、クロエは首を振って、


「でも理由がないわ。私利私欲のためと言っても破蓋の目的は人類を滅ぼすことよ? 何の得にもならないわ」

「ウィ」

「その目的自体が間違いの可能性はないのかと聞いてます」

「それはない」


 ミミミとマルの言葉に即答したのはクロエではなくずっと背を向けたままの生徒会長だった。


「この地に大穴が出来たときに破蓋は地上へと侵攻し破壊と殺戮を続けた。相手は人間だけじゃない。動物も植物もあらゆるものを破壊しつくそうとした。大穴周辺にある廃墟はそのときのもの」


 淡々と語る生徒会長の言葉に俺はぼんやりと思い返す。ナナエやヒアリが訓練に使っている廃墟ゾーンだが確かに徹底的というレベルで破壊されていた。


「うーーーーーぃ」

「まだ疑問はあります。先生が破蓋とつながっている可能性に気がついたのが私達だけというのは不自然です。先生がこの学校に居座っているようになってからそれなりの年月が経ち、たくさんの英女が先生の指示の下戦っていました。それで誰も不審だと気が付かなかったのは出来すぎています」


 ミミミの疑問をマルが通訳する。


「それは簡単。あなたたちが破蓋と戦った英女や協力者の中で一番適正値が低いおかげ」

「ああ……そういうことか」


 生徒会長の言葉にクロエは困った感じになる。なにか言いづらそうな空気になっていたのでナナエが、


「構いません。今私達がやることは破蓋との戦いを終わらせることです。対話という手段を模索していますが、場合によってはすべて破却することもためらいません。そのための情報が欲しいのです」

「あ、いやそういう話じゃないんだけどね……」


 クロエはちょっと申し訳なさそうに。


「別に悪意があって言うわけじゃないから勘弁してよ? 元々先生のことはあたしら風紀員とか生徒会の執行部に所属している生徒からはひどく評判が悪い。今まで英女っていうのは適正値が高い子だけになるから、先生になにか胡散臭いところがあっても悪いとは考えない。この話は前に言ったわよね」


 その言葉にナナエは頷く。クロエは続けて、


「となると、破蓋と英女は戦うけどあたしら執行部は先生がどうやって戦ったなんか伝わってこないわ。多少の情報は得ても疑惑とかまでには思いつかないでしょうね」

「つまり……あたしらの適正値が低いおかげで先生を疑うことができたってことかー?」


 ハイリの問いにクロエは頷き、


「英女はみんな適正値の高い子ばっかりだったからね。今回は英女側には適正値の低いナナエや工作部の連中がいたおかげで先生に不信感を抱くことが出来たってこと」


 クロエは申し訳なさそうにいう。なんだ、俺らがダメダメだったおかげで気がついただけかよ。皮肉なもんだな。


(おじさんなんかと一緒にしないでくださいよ)


 知らぬ間に声が出ていたようでナナエが口をとがらせていた。

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