第163話 どうしたもんだか
ヒアリの浮かない顔を見て俺は内心で舌打ちする。俺とナナエはハイリを煽った先生への怒りに流されていたが、ヒアリはすべてを受け入れて肯定する形で自己犠牲心が発揮されるわけで、この悪口の流れでいい気分になるわけがない。かといってハイリに対する行為は許されるわけでもないし、先生を擁護してしまえば今度は俺らの怒りの感情を否定してしまう。それはヒアリの自己犠牲心からは考えられない。
つまり板挟みで困ってしまっているのだろう。もっと早く気がついてやればよかったな。
(失策でした)
(同感)
ナナエと俺が同調する。しかし、これは厄介だな。ヒアリの気持ちの尊重する方法が見当たらない。
「ウィ……ウィ……ウィ……」
ミミミがなにやら唸っているのでナナエが
「なんて言ってるんですか?」
「唸ってるだけです」
「……そうですか」
マルの言葉にあっはいって感じになる。ミミミもヒアリのことでどうしたもんかと困っているんだろう。
ここでハイリが立ち上がり、
「とりあえずここで悩んでも仕方ないから先生のところに行こうぜー。あたしらが勝手に先生を疑っているだけなのかもしれないし、直接話を聞けばいろいろはっきりするだろ? あたしも言いたいこともあるしさ」
そう手を上げて声を張り上げる。だいぶ調子が戻ってきたようだ。
これにヒアリも立ち上がって、
「そうしようそうしよう! 私も先生がどう思っているのか知りたいし。あっでもでも、危ないこととか乱暴なことは駄目だからね」
「わかってるさー」
そう二人でなぜかえいえいおーとかやり始める。まあ結局聞きに行くのが正解だな。
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そんなこんなで俺らは先生のいる部屋へとたどり着く。そして、その扉の前に立つ。
「行きますよ……」
ナナエは意を決して扉を開け――
「あ、あれ?」
ガタガタと開かない扉に困惑する。なんだどうしたんだ。
その後ナナエが鍵穴や扉の隙間を覗いていたので俺もわかるが、鍵がかけられている。いや鍵ぐらい閉められるだろ?と思ったが、
「この部屋の扉には鍵はありますが、私は英女になってから4年間何度も来ましたが、鍵がかかっていたことはありませんでしたし、先生が留守のときも扉は開いていました。一体……」
なにやら予想外のことが起きているらしい。
と、ここでミミミがなにか工具を持ち出してきて、
「ウィッウィッ」
「とりあえず開けて見るそうです」
マルと一緒にガチャガチャと鍵穴をいじり始めたので、ナナエは慌てて、
「無理やりこじ開けるのは駄目ですよ。壊れたら大変です。学校の備品なんですから。といいますか無理やり入ると話がこじれるかもしれませんし……」
「うるせぇな。なんでもいいから話を聞く方が優先だろ」
そう言ってナナエの抗議をスルーして鍵を開けようとするが、
「ウィ……ウィ?」
「鍵穴が潰されているそうです。これでは開けられません」
マルの通訳にナナエはほっと胸をなでおろす。ヒアリがいる手前あまり強行突入とかはやりたくないんだろう。
てかなんで鍵穴を潰しているんだ? 籠城でもしているのか。まさか前に起こした事件をまた……
「あんたたちそこで何をしてるの?」
そこに現れたのは肩までかかる黒髪ストレートの女、風紀委員のクロエだった。
ミミミは慌てて工具を背中に引っ込めてぴーぴーぴーと口笛を吹いてごまかそうとするが、すぐに回り込まれて、
「また変なものを持ち出して……扉を壊そうとしてたの? 前みたいに連行して反省文の刑にするわよ」
「ヒィ!」
ミミミが顔を真っ青にして逃げようとするが即座にクロエに首根っこを捕まえられてしまう。
ナナエはハイリの耳元に近づいて、
「何かあったんですか?」
「んー? あーまあ前に窓に綺麗に穴を開けて侵入するとかやって案の定見つかって反省という文字を1万回書かされてたことがあったんだよ。ミミミがすげー嫌だったみたいで、精神的後遺症が残ってるらしいんだよ」
基本いいヤツしかいない学校なのになかなかハードな罰だなおい。
そんな状況でマルが、
「誤解です。鍵は壊れてますが、私達が壊したものではありません。元々壊れていました」
「本当?」
「本当です。そもそも大した扉ではありません。本気で入りたいのなら破壊すればいいだけです。今頃爆薬でも使って簡単に入っているでしょう」
「余計に悪いわ!」
クロエが突っ込んでしまう。話がこじれそうなのでナナエが割って入り、
「と、とにかくまだ何もしてません。私達は先生に話があったので来たんですが、どうも鍵がかかっていて、しかも鍵穴が潰されているようで……」
「先生? ちょっと前に用事があるからって出ていったわよ。しばらく帰ってこないって言ってたわね」
「え?」
クロエの言葉にナナエは初耳だったのでキョトンとしてしまう。
「……どうやらいろいろ事情があるみたいね」
そうクロエはため息をつく。
一方俺は唖然としてしまっていた。
(……逃げた?)
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