第162話 カチコミ
「んで腹を割ってちゃんと話を聞こうか」
どすを聞かせたミミミの正面には正座しているハイリがいる。いつもの元気の良さはどこへやらしゅんとしてしまっていた。
破蓋との戦いが終わって一度学校に戻ってきたが、どうにもハイリの様子がおかしいのでミミミとマルがどうしたのかと問いただしている真っ最中である。
ハイリは申し訳なさげに、
「先生にこないだ呼び出しを食らったときに言われたんだよ。もしナナエかヒアリのどっちかが戦死したりしたら次の英女は多分あたしだって。そうしたら……ほら、適正値の低いあたしが選ばれるわけないって話をしていたのが嘘になるじゃん? ミミミたちにあわせてなんとか適正値を下げていたのもバレるし……」
「なんてことを……! そんなことを伝えれば動揺するに決まっています!」
その話を聞いてナナエが眉毛を釣り上げる。俺はふと疑問に思い、
(次の英女って予想できるのか?)
(適正値の高さからある程度の推測はできますが、断定はほぼ不可能です。そもそも選ばれないと言われていた私が選ばれている時点でそれは証明されています)
(確かに)
その説明に俺も頷く。
てことはだ。恐らく先生の目的はハイリに変なことを吹き込んで工作部内で内部対立やギスギスといった不和を作り出すつもりだったんだろう。吐き気のする話だ。
その話を聞いていたミミミはしばらく黙っていたが、やがてすっと立ち上がった。そして、部室の隅に山積みになっている部品をあさっていたが、
「ウィ」
そう言って取り出したチェーンソーをフル回転して構え始めた。ナナエは慌てて、
「そんな物騒なものを持って何をするつもりです!?」
「うるせえ。うちのモンにふざけたことを吹き込んでくれた先生のところに殴り込みに行ってくんだよ」
「あっあぶないことはだめだよー」
ナナエとヒアリはミミミにしがみついて止めに入る。仲間に手を出した仕返しとかヤクザのカチコミかよ。
「のんびりしてないでマルさんも止めてください!」
そうナナエはマルに助けを求めるが、
「え? なぜ止める必要があるんです?」
そう言ってにこやかな笑顔ででかい金槌を持っているマル。一緒に乗り込む気まんまんだこれ。
……そんな騒ぎがぎゃーぎゃー続いてから10分後。やっとミミミとマルは落ち着きを取り戻してハイリの前に座り直した。
「でもよぉ、その程度のことは話してくれてもよかったんじゃねえか?」
「いやほらあたしが適正値が実は高いって話をするとなんか怒らせそうだし……実際にミミミやマルは嫌な気分になったと思うし」
そう神妙な顔で話すハイリだったが、
「知ってた」
「知ってました」
「すいません、ミミミさんから聞いてました」
「私もー」
「えぇ……」
ミミミとマルとナナエとヒアリに突っ込まれて呆然としてしまった。俺も知ってたしな。
そんなハイリにミミミはずずっと近寄って鼻を指先でグリグリしつつ、
「隠してたつもりなのかもしれねえけど、傍から見たらバレバレなんだよ。隠す気あんのか、あぁん?」
「ごめんよー」
ハイリは平謝りするばっかりだ。更に続けて、
「そもそもナナエとヒアリには傷ついてほしくないって思ってるんだよ。でも先生にそう言われてから、本当はあたしが英女に選ばれるのが怖いからそう思っているんじゃないかとか考えちゃってさ……そうしたらなんか頭が痛くなってきて」
そうしゅんとしてしまうハイリの手をヒアリは握って、
「私はどんな理由でもハイリちゃんに心配されたら嬉しいよ?」
「……それは擁護になってない気がしますが」
「えー? そうかなぁ? 私は大切にされているんだなーと思うしだから逆に助けてあげたいなーって思っちゃうかも」
困り顔のナナエにニッコリと微笑むヒアリ。
ミミミはすぐに離れて腕組みしつつ、
「まあハイリを責める気はねえ。あたしもこんな口調だから、ろくに他人と口をきけねえ状態だからな。他人様のことをどうこういう立場でもねえからよ」
まあ本当に口の悪いやつである。直せばいいんだろうけどハイリの話じゃプライドに関わる問題らしいから難しいようだ。
(おじさんの口調も似たようなものでしょう。ヒアリさんはちょっと戸惑っているようですが、私はおじさんのおかげで驚かずに済んでますよ)
口に出してしまっていたようでナナエからツッコミを受けてしまう。確かに底辺の口調が伝染ってしまっているから直したくても直せないから困る。
(なら俺も少しは口調を改める努力をしてみるか……はいはいナナエさん、ご機嫌麗しゅうございます。本日はお日柄もよろしく、日々精進したけるわ――)
(意味がわからない上に気持ち悪いのでやめてください)
(なんだよー)
ナナエに即座に否定されてしまったのでやめる。まあ馬鹿な話とか工作部であーだこーだ話しているのよりも先に気になるのは、
「ヒアリさん顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
俺と同じくナナエも気がついていたらしい。どうにもヒアリの様子が落ち着かない感じだった。
「ミミミさんの口調に当てられて動揺しているのかと思いましたが……」
「ううん、それは大丈夫だよ。あれがミミミちゃんにとって大切なものだってわかったから、私はちゃんと受けとめてあげたいな」
にっこり笑顔のヒアリ。くううううう、この優しさ、純粋さ、可愛すぎる。
ナナエは俺が感涙しているのに心底嫌らしい目つきになるもののすぐに戻して、
「では何が問題ですか?」
「……先生のことかな」
ポツリとヒアリが言葉をこぼした。
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