第161話 換気扇破蓋2
業を煮やしたナナエは腰から拳銃を取り出し、
「このままでは埒が明きません。拳銃なら反動も少ないので攻撃します。ヒアリさん、すいませんが私の身体を固定してください」
「うん! ぎゅーとする!」
ヒアリがナナエの身体を締め付けるようにしっかりと押さえつける。ただしバルーンを握っているので使えるのは片手だけだ。かなり心もとない。
「行きます!」
ナナエは拳銃を発射する。大口径対物狙撃銃に比べればずっと反動は低いが、それでもかなりの衝撃でヒアリが歯を食いしばって支えた。
狙い目は換気扇破蓋のプロペラファンの中心だ。起動する部分も電源コードにも核がないなら、真っ先に思いつく部分なのは間違いない。
「この破蓋の表面は固くないので拳銃でも十分に弾は通っています。しかし……」
ナナエが歯ぎしりした。換気扇破蓋の中心に穴が開くがすぐさま復活してしまう。核があれば即崩壊するはずなので、外れである。
さらにナナエは換気扇破蓋のあらゆる部分を拳銃で撃ち抜く。だが、全てあっという間に修復されてしまった。
「な、ナナちゃんごめんねっ。ちょっと体勢悪いから立て直していいかな」
「すいません。私も少し冷静さを失っていました」
ナナエは一旦拳銃をポケットに仕舞うと、ヒアリの言葉に従って、態勢を直す。ここで落ちればすべてパァなんだから慎重に行かないと行けない面倒な場面だぞ。
(あらゆるところは撃ち抜いたのに核がない? いや運悪くハズレているだけの可能性もあるんじゃ)
「可能性は否定しません。しかし、破蓋の核は元になっている物の特徴的な部分にあるのが基本です。そこにないとなると……」
うむむと考え込んでしまうナナエ。確かにひげそりのときはスイッチだったし、スマフォ破蓋とガラケー破蓋も電源ボタン。そうなると、この換気扇破蓋も電源コードかスイッチの部分だが、どうもそこにはないらしい。
(実は換気扇じゃないのか? いやしかしどうみても換気扇だが……)
そう考えているうちに、換気扇破蓋がどんどん近づいてきている。やばいやばい。
「ナナちゃんどうしよう! もしでっかい銃で撃ってもナナちゃんを落としたりしないようにしっかりと抱きつくようにするよ!」
「核の位置がわからない以上、狙撃しても無駄です。まずは核を見つけないと――」
ヒアリの言葉を保留しナナエは目を凝らして核の位置を突き止めようとする。
換気扇、電源、動かすための紐、プロペラファン。これらにいくら攻撃して破蓋の核には当たらない。何かを見逃しているような気がする。決定的ななにかが……
ここでナナエの携帯端末からいつもの不気味な音楽がなり始めた。最深観測所で破蓋が浮上している。
(おいおい、この状況で新手か? 追い打ちを仕掛けてきたのかよ)
「さすがにまずくなってきました……!」
ナナエは携帯端末を見ながら露骨に焦りの声を上げる。新しい破蓋はかなり小さく最深観測所のカメラ性能では何が元になっているのかわからない。サイズは長方形でパッと見でクーラーとかテレビのリモコンみたいなものに見える――
リモコン?
俺の頭の中で突然つながった。
(リモコンだよリモコン! そうかそういやそんなタイプもあるよな!)
「勝手に納得してないで私達にもわかるように説明してください!」
ナナエが抗議の声をあげる。俺は答えが見つかってウキウキな口調で、
(換気扇は紐で引っ張って起動するのが普通だろ? でもリモコン――遠隔起動できる作りのやつもあるんだよ。別の小さな端末でぴっとしたらブオーンと動き出す感じのやつ)
「放送受信機みたいなものですか?」
(なんだそりゃ――ああテレビか。そんな感じのだな)
「なるほど……機械が元になった破蓋は電力を供給したり起動したりする箇所に核がある場合が多いので辻褄が合いますね」
俺の説明にナナエはふむと納得する。そして、工作部に連絡を入れてその説明をした。
『ウィウィ!』
『最深観測所から送られてきた画像を補正して確認したところ確かに核がありました。恐らくそれで間違いないかと』
そうミミミのお墨付きももらえた。
「でもどうしよう。この位置からだとかなり離れているし、換気扇さんの影になってるから見えないし、そのりもこんさんっていうのをやっつける方法がないよ」
困り顔のヒアリ。だがナナエはすぐに大口径対物狙撃銃を構えつつ、
「ヒアリさん。手榴弾を一つ持ってませんか?」
「あ、うん。装備は一式もってきてたから。背中のかばんに入ってるよ」
ナナエはヒアリにしがみつきながら、そこから手榴弾を取り出す。
「ありがとうございます。あと一発だけ撃つのですいませんがぎゅっと強く私を支えてください」
「わかった絶対に離さない!」
そう言われたヒアリはナナエを今まで以上に強く抱きしめる。
(どうする気だよ)
「あの換気扇の破蓋はあまり硬くありません。一瞬だけ下が見渡せれば十分です」
そう言いながら迫ってくる換気扇破蓋めがけて手榴弾を投げ落とす。ちょうどそれがぶつかったタイミングで破裂し、大爆発が発生。それで換気扇破蓋は一瞬バラバラに吹っ飛んだ。だが、核が無事なのですぐさま再生が始まる。
「破却します!」
そうナナエがつぶやくと同時に大口径対物狙撃銃を発砲した。桁外れの衝撃と轟音が俺とヒアリを突き抜ける。だが今回もヒアリはしっかりとナナエを抱きしめた手を離さなかった。
そして、再生し始めていた換気扇破蓋が突然バラバラと崩れ落ち始めた。
俺には何も見えなかったが、どうやら一瞬下が見えたときにリモコンの方の位置も把握し、即座に撃ち抜いたのだろう。相変わらずの化物っぷりである。
(やれやれ今日の仕事は終わったか)
「はい」
「うん! 帰ろ!」
俺たちはバルーンに引っ張られて上に向かって昇っていった。
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