第160話 換気扇破蓋1
ぶおーんという回転音とともにプロペラファンを回した換気扇の破蓋がかなりの速度で上昇してきている。サイズはかなり大きい、大穴の直径の半分ぐらいある。
まずいな。こっちはゆっくりだからすぐに追いつかれるぞ。かといって焦って落ちたらあのプロペラファンに巻き込まれてずたずただ。ぞっとする。
俺はあたりの気温を確認してから、
「もうそんなに暑くねえから返すぞ」
(はい!)
身体の主導権をナナエに返す。すぐさまナナエはヒアリが持ってきていた大口径対物狙撃銃を手にして狙いを定める。俺も破蓋の姿を確認するが、
(ここからだと核が見えねえ。どこだ?)
「今まで扇風機の破蓋はいたはずですが、換気扇は初めて見ました。私もどこにあるのか判別が付きません」
(てことは新型かよ……)
このタイミングで新型が浮上ってのはもう偶然ではないだろう。
ナナエは大口径対物狙撃銃で換気扇破蓋を狙いつつ、
「ヒアリさん、もしここで私が発砲しても支え続けられる絶対の自信はありますか?」
その問いにヒアリは一旦何かを口にしようとしたもののしばらく考えてから、
「絶対にナナちゃんを離さない――って言おうと思ったけど、私の浮遊能力も全然未完成だしこんな体勢でナナちゃんが攻撃するっていうのも初めてだから断言はできないかも。ごめんね」
「明確明瞭の良い答えです。ありがとうございます」
そう言われたナナエは大口径対物狙撃銃を背負い直す。撃てないものを構えても仕方ないからだろう。
さてどうするか。
『ウィッウィッ』
『かなり不安定な態勢なのでうかつな攻撃は避けてください。もし反動でナナエさんがヒアリさんから離れて換気扇破蓋の上に落ちれば終わりです』
『……ウィ』
『恐らく今回の狙いはナナエさんでしょう。状況的にナナエさんが攻撃するしかなく、また攻撃をしたら落ちてしまう。落ちた場合は回転翼で負傷しさらに大穴の底に落ちて焼き尽くされます』
(そうなりゃ精神的苦痛で適正値が下がって、能力を失って即死亡ってわけか)
ミミミの説明で今回の最優先ターゲットはナナエだと推測できる。先生に反発している素振りが多かったからかもしれない。不死身の能力を持つナナエをどうやったら始末できるのかを考えてあるようだ。くそったれめ。こいつの代わりに苦しむのは俺だぞ。
……ちょっと待てよ。てことは先生は俺の存在にまだ気がついてない?
ミミミは更に続けて、
『ウィウィ』
『換気扇破蓋は過去に出現例がありませんが、扇風機のものと似ています。また過去の破蓋の情報を洗っていくと電気で回転するものが元になっている破蓋の核は大半が電源の部分になります。恐らく電気線の接続端子か起動する場所かと。換気扇であれば電源を入れる紐があると思います』
ミミミの通訳を聞いて、俺は換気扇破蓋を見渡す。確かに換気扇といえばあの紐をがっちゃんと引っ張って動かすもののはずだが、見当たらない。
「電気線は下に垂れ下がっていますね。しかし、ここから見る限りでは核はその位置に見当たりません」
ナナエも目を凝らしている。確かに電源コードとコンセントが見えるが、ナナエの言う通り端子の部分に核はない。
(てか、このタイミング――状況でそんなわかりやすい破蓋が出てくるってのも変だな)
「どういうことですか?」
俺の指摘にナナエが不思議そうな反応を返す。
(先生はここに工作部がいることを知っている。新型を出した場合、工作部がすぐに過去の例を調べて、核の位置を予想してくるまで想定しているだろうよ。てことはここで送りこんできた破蓋は工作部の予想が外れたところに核があるんじゃねーかなと思ってな。実際にないし。単純な破蓋じゃないとはず)
「なるほど、おじさんの割に珍しく極めて希少で理知的な判断です」
いつも一言多いナナエは頷いたあと、俺の言葉を工作部にも伝える。
『ウィ……』
『少し考えます。粘ってください』
一旦連絡が途切れるが時間はない。
「おじさんすっごーい。そんなこと私は全然思いつかなかったよー」
ナナエが褒めてくれているが、まあただの推測だからな。間違っている可能性もある。
換気扇破蓋は更に近づいてきている。このままでは結局プロペラファンに巻き込まれてヒアリもろともミンチだ。しかし、こいつずっと上昇してきているだけだな。まあ換気扇にできる攻撃なんてそれくらいしかないから無理もないか。
今はヒアリが浮遊能力を使って体重を軽くし、ガスを入れたバルーンを掴んで上に向かっている。ならバルーンを破壊すれば二人共大穴の底に真っ逆さまなんだが、その気配はない。その攻撃手段を持ってないってことか。ならもうちょっとだけ粘れる。
しかし、核が見つからないと倒しようがない。どこだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます