第151話 カメムシ
破蓋の浮上が最新観測所で確認されたので工作部の三人は即座に荷物を片付け始めた。そして、ミミミは手を上げて、
「ウィ!」
「気をつけてください。二人にもしものことがあっては今後の見通しがつきません」
「わかってます。そちらも安全なところまで退避してください」
マルの通訳にナナエは装備を確認しながら答える。こちらは調査中に破蓋が浮上してくるのも想定していたので装備はすべて用意されている。
そんな中、ハイリはじっとナナエの方を見ていたので。
「なにかありましたか?」
「あっいや、二人共気をつけてほしいってあたしも思って……」
「当然ですし、負ける気もありませんよ――ハイリさん?」
今度はハイリがなぜかオロオロし始める。なんだよ怖いぞ。
「あー……」
ここでハイリは上を向いてしまい、自分の顔を手で覆ってしまった。
「オラッ、何してんだ早く行くぞ」
ミミミはどうにも挙動不審な態度のハイリの手を引っ張って上に向かっていった。
しばらく階段を上がっていく工作部を見ていたが、
「……ハイリちゃんなんか変だよね」
ポツリとヒアリが口にする。ナナエも頷いて、
「確かにらしくない感じがしますね。調査を始めるより前からです。何かあったのかもしれません」
(何かって……)
そう言われてすぐにひらめいた。そういやこないだ先生に呼び出しをされていたが、まさか……
ナナエは拳を握ってパンと手のひらをたたき、
「そろそろ先生とは直に話をつけなければならないようですね……!」
そう怒りを露わにする。まああの先生がなにかハイリに吹き込んだってことだろう。一方ヒアリはオロオロと、
「ら、乱暴なのは駄目だよぉ」
「しかし、これでは私の気が収まりません!」
確かにそのとおりである。最新観測所の下に張り巡らせている鉄骨の謎とか、ナナエを混乱させるような情報をいきなり見せてきたりと、わけのわからんことばっかりしている。何がしたいんだ?
(ひょっとして先生は俺らの邪魔をしたのか?)
「……なぜです? 破蓋が大穴の外に出れば人類が滅亡すると言われているんですよ? それを邪魔するなど自殺行為でしかありません」
ナナエの指摘に俺はピンと来た。
(自殺できないからいっその事世界を滅ぼしてくれと思ってるとか)
「そんな馬鹿な……」
ナナエは呆れてしまう。一方のヒアリも頭を抱えてよくわからないとぼやいている。まあ確かに先生の行動は全く論理的ではない。
そんな話をしている間に破蓋が第6層近くの観測所まで浮上してきていた。思ったより速度が速い。
ナナエが携帯端末で破蓋の情報を確認する。映っていたのは二体の破蓋。
片方の破蓋はすぐに分かるものだった。
「ねじ回しですね。ヒアリさんも戦ったことがあるはずです」
「これ固くて重いから嫌いー」
二人の言っている通りボルトを締めるのに使うスパナってやつだ。俺もこいつとは遭遇しているが、くるくる軽快に回って殴りつけてくるくせに妙に重い。ヒアリが防いでも身体ごとふっとばされていてハラハラしたものだ。
問題はもう片方だった。筒――というか缶みたいな形状をしている。ただしジュース缶よりももっと平べったくてちょうど半分ぐらいの大きさだ。その全身は薄汚れていたが、一部綺麗なところにはポップな文字が書かれていた。
「カメムシ?」
(そう書いてあるよな?)
「私もそう見えるー」
三人全員一致した。確かにカタカナでカメムシと書いてある。コーラだのサイダーだの書いてあればジュース缶だってわかるが、何だカメムシって。
スパナ破蓋は核が取っ手のところについてあるから撃ち抜けばいいが、こっちの缶みたいな破蓋は観測所からの画像だけでは見当たらない。
「恐らく完全に内部に埋没している形状でしょう。厄介ですね」
「ナナちゃんが撃ち抜きまくってれば、そのうち破蓋さんの核に当たるんじゃないかな?」
能天気にいうヒアリにナナエは首を振り、
「前にこの手の破蓋を撃ち抜いたときに大爆発を起こしたことがあります。恐らく気体燃料が詰まっていた缶だったのでしょう。幸い私しか爆発に巻き込まれませんでしたが、全身大やけどで傷が治った後も精神的後遺症のせいで数日苦しみました」
「うえー、こわいなぁ」
ヒアリの話にゾッとしたのか身体を震わせるヒアリ。とってもかわいい。
(というか俺もそんなのは嫌だからヘタに攻撃するのはやめてくれよ。ヒアリまで巻き込んだからたまらんし)
「そんな事はわかってますよ」
そして、破蓋が第3層近くまで浮上してきた。
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