第150話 今日も調査

「すっごーい……」


 ヒアリが驚きと恐怖が入り混じった感想を口にする。

 俺たちは今大穴の第三層にいる。目的は大穴の底をさらに詳しく調査するためだ。

 ちょっと前にまた使い捨て探査機を底めがけて落とし、今は送られてきた映像やその他データを確認している。

 底の様子は前と同じように巨大なマグマの海にポッカリと空いた黒い穴だったが、前回よりも鮮明に撮影されていてそのおぞましさが嫌というほど伝わってくる。

 

「これだけきれいに見えると流石に恐怖感を感じてしまいます」

「こんなのが撮れちゃうなんて工作部のみんなすっごーい!」


 難しい顔をするナナエと工作部を称賛するヒアリ。

 今回の探査機はかなり改良されている。カメラは前回よりも性能は格段にあがっているし、できるだけ撮影する時間を伸ばせるように装甲も頑丈にし、さらにある一定まで落ちるとパラシュートが自動で開いてゆっくりと落ちるようにした。さらに温度計も設置し、大穴付近の熱がどの程度なのかも調べられている。


 こんなものを作ってしまう工作部――とくにミミミの才能は本物なんだろう。

 しかし、ミミミは不満げな顔だ。ヒアリが不思議そうに、


「どーしたのー?」

「………」


 ミミミが黙ったままだったので、代わりにマルが、


「落下傘がひらいて降下速度を落とすなんてことをすぐに思いつかなかった自分が腹立たしいんですよ」

(めんどうくせえ)


 俺が愚痴っていたら今度は、


「……ウ」

「温度計が壊れたそうです」


 ミミミがまたまた不満そうな顔になっていた。どうやら想定よりも早く壊れたらしい。

 端末に送られていたデータを見ると、温度の数字は限界を超えていてしまっていた。うへー、こんなところに行きたくねーぞ。


 そんな中、ハイリだけはじっと黙って大穴の底を見つめていた。いつもなら騒いでいるやつのはずだが今日はどうしたんだ?

 ナナエもそれに気が付き、


「ハイリさん、どうかしましたか?」

「…………」

「ハイリさん?」


 ナナエが二回呼びかけたところでハイリはやっと気が付き、


「え? あ、いやー、なんか危なそうだからきちんと準備しておかないとナナエたちが危ないかなーってちょっと思っちゃって」

「ウィッ」

「何いきなり怖気づてんだと。私も同感ですね」


 ミミミとマルに言われて、なにかバツの悪そうな顔をしてしまうハイリ。だが、すぐに手を叩いて、


「あたしのことはいいからさっかさと状況確認しようぜー。何をやるにしてもきっちりと情報を収集しておかないといけないし」


 そういってミミミたちと底のデータを確認し始める。

 その間、俺とナナエは大穴の底の画像をじっと見ている。


「おじさんもここを通ってきたってことですよね」

(恐らくはな。全く覚えてないが)

「やっぱり熱そうだよね」


 ここでヒアリが割り込んできた。顔が近い。かわいい、かわいいすぎる。


(粉砕します)

(やめろ。というかヒアリを離してくれ。冷静さを保てない)


 ナナエはぐいっとヒアリをどけて、


「おじさんが発情して危険です。あまり私に近づかないでください」

「えー」


 不満げなヒアリ。

 まあそんなことよりも送られてきている映像の方に気になるものがある。


(なんかここ変なものが写ってないか?)

『え?』


 ナナエとヒアリは端末をジロジロ見回す。程なくしてナナエも写真の中に違和感があることに気が付きついた。


「確かになにかいますね。小さくてはっきり見えませんが……」

「ウーィ?」


 ここでミミミが首を突っ込んできた。どうやら俺らの話を聞きつけたらしい。すぐさま映像を巻き戻したり進めたりして、


「ッウィ」

「破蓋の可能性があります。合計で二体います」

(二体?)


 マルの解説に俺はもう一度映像を見るが、一つだけなにかゴミみたいなのが写っていることにしか気が付かない。すると、ミミミがもう一つの方を指さしてきた。


「よく気が付きますね……」

「すっごーい」


 ナナエとヒアリも感心する。確かにゴミどころかチリみたいなのが動いていた。それもかなり速い速度でゴミの方の周りをぐるぐる回ってる。ミミミは本当にすげえな。

 ここでハイリが手を振って、


「おーい、探査機からの情報送信が止まったぞー?」

「はあ!? 壊れるにはまだ早えだろ!」


 いきなりブチギレ口調でミミミがハイリのところに駆け寄る。マグマの海に到達するにはまだ距離があるはずだ。てことは嫌な予感がする……


 ほどなくしてナナエの携帯端末から例の不吉な音楽が流れ始めた。ナナエはぐっと拳を握る。


「破蓋です」

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