第148話 次の英女

「ちわーっす」


 ナナエが先生に報告書を上げた日の翌日。ハイリは一人で先生の部屋に呼ばれていた。今まで風紀委員にしょっちゅう呼び出されては逃亡していたが、先生に直接来るように言われたのは初めてだった。なので平静を装ってはいるものの、割と緊張気味になってしまっている。


「よく来ましたね。楽にしてください」

「はい!」


 先生の前に立つハイリ。一方の先生は書類を確認していた。ナナエが書いて渡したものだ。


「ミチカワさんからの報告は聞きました。破蓋と対話するということですね」


 ハイリはミチカワって誰のことだっけと一瞬戸惑ったがナナエのことだと思い出す。


「はい! このまま戦い続けるとナナエやヒアリが大変そうなのであたしら工作部も協力して破蓋をこの世界に来ないようにするって決めました!」


 そう緊張しつつもハキハキと答える。先生は続けて、


「もう一つ。大穴の底に降りるということのようですが……」

「工作部の方で調査したんですけど、大穴の底には溶岩のような炎に包まれている場所がありました。そこに開いている穴の下に恐らく破蓋の本拠地があると考えられます。なので、ナナエとヒアリをそこに下ろすという計画を進めています」


 底に降りる。あの先にきっと破蓋の本拠地があるのは間違いない。そこにいかずに対話とかは無理だろう。

 先生はふむと頷き、


「大穴の底についてはすでに数十年前に政府の調査でも確認されています。昔と変わっていません」

「あ、やっぱり調べられていたんですね。一番乗りだと思ったのにちぇー」


 とっくに既出だった情報にハイリは残念そうに口をとがらせてしまう。とはいえ、ミミミからもこんなもん政府とかもっとすげえ技術を持っている連中ならとっくに知ってるだろとか言われていたが。ただいろいろやばい手を使って情報を集めたときには出てこなかったので、あまり知られていない調査だったのかもしれない。

 先生はまたパラパラとナナエの報告書をめくりながら、


「この大穴の底に偵察用機材を下ろしたことは何度かあります。しかし、全て壊れてしまい、何があるのかわかっていません」

「やっぱり熱いんですか?」


 ハイリの問いかけに先生はしばらく考えてから、


「それもありますが、機材がものすごい力で潰されたり、切断されてそのままもどってこなかったりと理由は様々です。あそこに入るのは容易ではありません」


 警告っぽいことを言われたのでハイリは緊張が高まる。もしかしたら、注意されているのかもしれない。

 更に先生は続けて、


「計画では英女をここに突入させるということになっています。かなり危険ですね。ミチカワさんは決して死なない力を持っているとはいえ、このような場所に入ればどうなるか予測できません」


 言われっぱなしなのも癪だったハイリはすぐさま反論し始める。


「当然そのあたりの危険性はわかってますって。見た目からして熱そうな場所だし、そりゃ危険でしょう? あたしらも慎重かつ入念な計画と準備をしていますから。無理なら諦めますよー。ナナエやヒアリの人命が第一優先ですから――」

「キミトさん」

「はい?」


 ハイリはこの学校ではみんな下の名前で呼び合っているせいで久々に名字で呼ばれてなにか違和感を覚えてしまう。

 先生は続ける。


「もし、ミチカワさんかカナデさんが戦死した場合、次の英女は高い確率であなたが選ばれると推測しています。もちろん選ぶのは神々様なので保証はできませんが、今までの傾向から考えてその可能性が高いでしょう」

「はい……え?」


 いきなり告げられた言葉にハイリの思考が停止してしまう。英女? 自分が? その候補に?

 ハイリは慌てて、


「ちょっちょっと待ってくださいよっ。なんであたしが? そもそも適正値がめっちゃ低いじゃないですかー。選ばれるのにふさわしい生徒が他にもいるし、冗談やめてくださいよー」

「適正値が高い方が英女に選ばれやすいのは確かですが、必ずしも上位の人だけが選ばれるわけではありません。カナデさんのように桁外れの適正値を持っている人が選ばれる場合もあれば、ミチカワさんのように非常に低い適正値の生徒が選ばれたこともあります」


 冷静な答えが返ってきてしまい、ハイリは返す言葉もなくなってしまう。


「そもそも、あなたの本当の適正値を考えれば選ばれるのは妥当でしょう?」


 先生はにっこりと微笑む。バレてる。ズルして適正値が低いように装っていたことがだ。確かにこの英女学校では適正値というものを計測しているが、それをごまかしたところで神々様には関係ない。本来適正値が極めて高いハイリはいつ選ばれてもおかしくないのだ。

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