第145話 現状のまとめ2
しかしだ。ヘアブラシ破蓋とかしゃもじ破蓋とかいたが、俺は『人間破蓋』と呼べる存在だったとしても疑問が一つある。破蓋っての無機物しかなかったと思ったが……
そのことをナナエに話すと、
「今まで浮上してきた破蓋はすべて無機物のものです。おじさんだけ有機物が元になっているのは違和感がありますね。ただ全て調べているわけじゃないんですが……」
ここでミミミが手を上げて、
「ウィウィ」
「わたしたちも過去の破蓋の情報はすべて確認していますが、有機生命体の破蓋は過去に出現事例はありません。犬や猫といった動物どころか、植物ですら浮上事例はないはずです」
「やはり……」
ナナエはうーんと唸っていたが、俺はピンとひらめいて、
(大穴の底ってクソ熱そうじゃん? 生き物はあそこでみんな焼かれるから来る前に死んじまうのかもしれないぞ)
(ではなぜおじさんは私に取り付いているんですか)
(さあ?)
(そこが説明できなければ意味がありませんよ)
そうナナエに言われてしまう。まあ確かに俺だけ例外になる理由もわからんな。
ここでハイリが手を叩いて、
「そこの話は情報不足だし後回しにしよう。とりあえずわかっていることから整理しておこうぜー」
そういってホワイトボードを取り出し今まで要点をまとめていく。
・破蓋は恐らく神々様と同じ存在
・破蓋は神々様を破蓋に変えようとしているのかもしれない
・ナナエの中にいるおっさんは『人間の破蓋』の可能性がある
・破蓋との対話は可能かもしれない
(仮説や推測ばっかりだな)
並んだまとめを見て俺はそう思ってしまう。とはいえ確認しようがないから仕方がない。
「他になんかないのかー?」
ハイリがそう聞いてきたので俺は思い出しつつ、
(そういや……表現しにくいんだが、宇宙みたいなのが見えたな。そこから従えとか呼ばれまくっていた気がする。最後の方はぐねぐね歪んで――なんかキレてた感じだったような)
俺の話をナナエが他の連中に伝える。その話を聞いたヒアリが手を上げて、
「神々様もなんかそんな事を言っているよ。破蓋さんの中でも特に巨大で危険な何かがいる感じがするって」
「破蓋の……首領ですか?」
ナナエがぽつんという。首領とか盗賊みたいだな。
これにミミミがしばらく考えてから、
「ウィ」
「破蓋の中にすべてを取り仕切っている存在がいる可能性はあるでしょう。大元ではその強大な神々様が破蓋となり、他の神々様を破蓋にして従えているのでは」
マルから言われたことはやっぱり推測だが納得はできる。俺の見たものでもそんな感じはあった。
(しかし、俺が見たものは宇宙だぞ? 破蓋っぽいものはなかったが……)
「宇宙の破蓋さんじゃないかな?」
俺の言葉を聞き取ったヒアリの言葉に、他の一同がぎょっとする。これにヒアリが慌てて、
「えっ、あ、うん。別に神々様から言われたとかじゃなくて、おじさんが宇宙が歪んで怒ってたみたいな話をしていたから宇宙さんそのものが怒っているんじゃないかなーって思っただけだよ」
「驚かさないでください」
ナナエはほっと胸をなでおろす。だが、ミミミは頷き、
「……ふい」
「ありえるでしょうね。神々様はあらゆるものの存在の元になっている存在です。つまり宇宙というものを元にしている破蓋がいてもおかしくないはず」
マルの通訳に俺はうんざりしてしまう。宇宙破蓋かよ。勘弁してくれ。規模が違いすぎて戦うとかそんな次元を超えてるわ。
ミミミは思いついたように腕を組んで、
「……ウィ」
「その破蓋については他のものとは別に考えておいたほうがいいでしょう。あと呼び方も変えておいたほうがいいので――」
ここでしばらくミミミが考えてから、
「宇宙……天を覆うほどの破蓋だから『天蓋』って呼んどくか」
そう自分の口で答えた。ナナエも頷いて、
「蓋を破るという意味でつけられた破蓋に足して、天の蓋ということですか。まあわかりやすいですね」
「天蓋さんだねー」
ヒアリもにっこりと頷いた。かわいい。
この先もいろいろ話したが、特にそれ以上情報がなかったので今回はお開きになる。ただ一つだけ決まったことがある。
・破蓋と対話してみよう
これだった。すでに破蓋との戦いが始まって数十年。これ以上の犠牲を出さないためにも終わらせる方法を模索する。そして、この果てしない戦いに終止符を打つ。
「うっぃ」
「私もミミミさんも異存はありません」
と、ここで二人の視線がなぜかハイリに向かう。それに気がついたハイリは、
「あたしも賛成。というか反対する意味もないしさー。さっさと終わらせたいよねこんな戦い」
やれやれと肩をすくめる。同時にどこか嬉しそうに見えた。ハイリは実は適正値が極めて高いが、ミミミとマルに配慮して低いように振る舞っている。もし破蓋との戦いが終われば、ハイリが英女に選ばれることもなくなるだろうし、これ以上嘘をつく必要もなくなるからだろう。
ナナエはこの話をすべてノートにまとめて、
「この件は私から先生に報告しておきます」
そう言って立ち上がった。
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