第143話 ハイリ
と、ここで風紀委員のクロエたちがぞろぞろと手下を連れて学食に見回り現れる。すぐにハイリたちの姿を見つけて近寄ってきて、
「まーた授業にでなかった上に、そんな汚い格好で食堂に来て」
「いつもは寮であたしが飯を作るんだけど、ミミミが腹が空いた死ぬって言うから急遽来ただけさ」
「周りに変な化学物質とかばらまかないでよ」
そういいつつクロエは額に手を抱えて、
「そういえば聞いたわよ? ハイリ、あんた最初の適性試験のときに――」
「――わっわっわ!」
突然慌てだしたハイリはそのままクロエの手を引っ張って学食の隅に行き、なにやら頼み事をしていたようだった。なんだよ。適性試験のときにションベンでも漏らしたのか? そりゃ辛いだろうが、さっさと忘れるか笑い話にしておけよ。
「何下品な事を言っているんですか」
(いっけね。声に出てたか)
唐突にナナエ突っ込まれて心の中で言っていたのがダダ漏れだったことがバレてしまった。そして、最近俺の声が聞こえるようになっているヒアリの方をちらりとみると、少々顔を赤くしていた。
「わ、私も女の子がお手洗いに行けなかったら辛いと思う……」
うあー、ヒアリに変なことを聞かせてしまった。今ももじもじしているヒアリの姿はまさにこの世界に降り立った芸術であり、そのような存在に汚い話を知らせてしまうとは俺の罪悪感のほうが辛い。
(これはうかつなことは言えなくなってきたな……まあ仕方ない)
「私にも配慮してください!」
ぎゃーぎゃー文句を言ってくるナナエをスルーしつつ、マルとミミミが微妙な顔つきで食事を摂るのをやめているのに気がつく。
マルはなにか半目でハイリとクロエが話しているのを見てたが、ミミミはむしゃむしゃと乱暴に食べるのを再開して、
「あいつまだあたしらが気がついてねえと思ってんのか。ばかじゃねーの」
珍しくウィ以外のべらんめえ口調で話し始める。薄幸の美少女みたいな容姿のくせにひでえ口の悪さでビビってしまう。
これにヒアリがキョトンとしたので変わりにマルが、
「ハイリさんいつも自分が英女としての適正値が低いって言ってるじゃないですか。あれ嘘なんですよ。実はこの学校で上位に入るほどなんです」
『え?』
ナナエも面食らってぽかんとしてしまう。ハイリの適正値が高い? 散々低い連呼してたのになんでまた。
ヒアリが首を傾げて、
「どうしてー? 適正値は高いほうがいいんじゃないかなぁ? あっ、でもでも、私はハイリちゃんが適正値が高くても低くても大好きな友達だよ?」
「……私達に合わせているんですよ」
マルがはぁとため息をつく。ミミミは飯を食いながら、
「あたしとマルは落ちこぼれ中の落ちこぼれでいつ退学処分を食らってもおかしくない適正値だったからな。そこに助けてやりたいって感じでやってきたのがハイリの奴だ。もちろんその時には自分も退学寸前だって嘘をついてな」
「適正値試験でもわざと退学にならないぐらいの低い結果を出していますからね。そういう人なんですハイリさんは。助けたい人に自分を徹底して合わせてくる。あんなに能天気そうな顔で実は気配りの達人なんです」
マルの言葉にナナエは疑問符を浮かべ、
「あの試験はそういった欺瞞ができないような作りをしてあるはずですよ。もし不自然な回答をした場合は、追試になり、それでも駄目な場合は退学処分になるはずです」
「ハイリのやつは事前に試験内容を盗んできたりして、どうすればいいのか徹底的に研究すんだよ。全く使う労力をまちがってんだ」
ミミミの言葉に俺は呆れてしまう。低い点数を取るために窃盗したりカンニングしたりとかするのか? いや、この学校にいる連中は自己犠牲心と他者への奉仕精神を持っているのばっかりだ。恐らくハイリはマルとミミミを助けるために自分の適正値を下げるという相手に合わせるという自己犠牲心を発揮しているのだろう。堂々とした振る舞いしていたのに実態は神経質なやつだったか。
ミミミが茶碗を置いて話を続ける。
「それでちょっと前までは結構ビクついてたんだぜ? ほら、一人死んじまったから――ウィ」
「すまない、無神経な発言だったと言ってます」
(そこはちゃんと言えよ……)
マルの通訳に俺は飽きれるが、恐らく口が悪くて誤っているように見えないからこうしたんだろう。ミミミも割とジレンマを抱えているのかもしれない。
これにナナエは首を振って、
「構いません。話を続けてください」
「……まあそれで英女に自分が選ばれるんじゃねえかってビクついててな。ちょうど英女がひとり空いているときに適性試験があったから、ハイリがあたしらの適正値をあげようとか言って、あたしらたちに協力させて試験用紙を盗んだりしたってことだ。本音は自分用なんだろうが」
「全くとんでもないことですよこれは! 見下していると言っていいでしょう!」
マルがドンと食堂のテーブルを叩いてしまい、周りの注目を集めてしまう。ここでヒアリが立ち上がって、
「ごめんねー。英女だからちょっと力の使い方が悪くてテーブルに手があたっちゃった。うるさかった?」
そのヒアリのいつもの笑顔を見た食堂の生徒たちはまた自分たちの食事に戻っていく。
これにマルが平謝りで、
「すいませえええええええええんんんん……。怒るとつい机を叩いてしまうんですぅ」
「気にすんなよ、あたしもよく畳や壁殴ってるだろ? おかげで部屋が穴だらけだ」
「それ直しているのあたしなんだけどさー。そろそろ自重してくれよ」
ここでミミミの話に絡んできたのはハイリだった。見れば、風紀委員たちはぞろぞろと食堂からでていっているので話が終わったんだろう。
そしてちょうどハイリが明後日の方を向いている間に、マルがしーと秘密のポーズを見せてきた。つまりハイリにはその話はするなということだろう。
全く面倒くさい関係だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます