第142話 やることがない
「これでは駄目です!」
ナナエは学食で拳を握って力説する。隣にはヒアリ、正面には工作部の三人が座って昼食をとっていた。何を作っているのか知らないがジャージが油とペンキまみれだ。見るからに変な匂いがしてきそうである。
ハイリはずるずるとそばを食べながら、
「ひきにゃりひょうひたー?」
「食べ終わってから話をしてください」
ナナエに静止されてからハイリは一気にそばを食べ終えると、
「いきなりどうしたんだ?」
「ヒアリさん――いえ、私のことです。ここ最近の破蓋破却は順調に進んでいますが、明らかにヒアリさんの力に頼りがちになりつつあると感じています」
「ウィ!」
「当然でしょう。ヒアリさんは無数の神々様を得ているのだから雑魚程度なら簡単に蹴散らすことができると、ミミミさんが言っています」
と、マルが通訳してきた。ちなみにミミミは野菜炒めを食べ終わり、今度はラーメンを食べ始めている。
ナナエは一回咳払って仕切り直しし、
「しかし、これでは私のやることがありません!」
どうやら自分の役目が無くなりそうなことに焦ってきているらしい。それを聞いたヒアリはあたふたと、
「そ、そんなことないよ。ナナちゃんがいるから私も安心して戦えるんだから。最後のとどめはナナちゃんがほとんどやってるんだし」
「まるで手柄だけ横取りしているようで気分が良くないんですよ」
ぶつぶつと不満を顕にするナナエ。
(別にいいんじゃねーの。俺的には痛い目に合わずに済むし、必要なときだけきっちりヒアリのサポート――支援をすればいい。変な気負い方をしてもしゃーない)
「しかし……」
不満たらたらなナナエに俺はある話を思い出し、
(手柄の横取りってことはないだろ。俺が前に聞いた話だと漫画――漫画ってわかるか?)
「バカにしないでください。わかります」
(その漫画はほとんどアシスタント――まあ漫画見習いの手伝いみたいなのが描いているんだが、最後にキャラの目玉を描くのだけは漫画家がやっていたらしいぞ。魂を込める作業だとかなんだとか)
俺の話にナナエは少し興味を惹かれ、
「なるほど……職人芸というものですか。確かに私の射撃は何年もかけてたくさんの仲間達とともに作り上げてきた技術の塊です。そう言われると悪い気がしませんね」
(あ、ごめん、この話ただの皮肉だった)
「私を馬鹿にしているんですか!?」
ナナエは顔を真っ赤にしてキーキー怒り出す。
そんな俺らをヒアリはにっこにこの笑顔で見つつ、
「今日もナナちゃんとおじさんは仲良しさんだねー。でも目だけきっちり描く人も尊敬できると思うよ。私、あまり絵が得意じゃないから」
その言葉にハイリが首を傾げて、
「ヒアリってもしかしておっさんの言葉が聞こえるのか?」
「うん、こないだから少しずつ聞こえるようになってきてたんだけど、今日はもうはっきりと聞き取れるかも」
あっけらかんとそう答えるヒアリ。俺とナナエも初耳だったので、
「本当ですか!?」
(マジかよ。あんなこともこんなことも全部聞かれてたのか。そういや朝方にした話は昨日ナナエが風呂場で――)
「やめてください! といいいますか、私のおじさんに対する批判なども全部ヒアリさんに聞こえていたということに……!」
「フィフィ」
「ナナエさんはいつも口に出しているから私達にも丸聞こえですよ」
ミミミとマルのツッコミ。ちなみにミミミはラーメンを食べ終えて、今度はチャーハンを食べていた。その中でヒアリは慌てて、
「だ、大丈夫だよっ。本当に聞こえるようになったのは今からでちょっと前までは雑音にしか聞こえなかったから」
「まあそれならいいんですが……」
やれやれとナナエは安堵する。まあナナエとグダグダ会話はしにくくなるけど、いちいち周りに説明するのも面倒だし、ヒアリに俺の声が聞こえるようになったのは悪くはない。
ハイリはずずいとヒアリの方に近づき、
「そういやヒアリは空も飛べるようになったんだって? すっげえな。なんかコツとかあるのかー?」
「うーん、飛べるといってもちょっとだけ浮いて進めるぐらいかな。神々様がどんどん私に力を貸してくれるようになってきたから、飛んでみたいと言ったら歩かずに地面の上を進めるようになった感じ」
(ホバークラフトみたいなのだったな。水の上を走るやつ)
「ほばーくらふとってなんですか」
ナナエが突っ込んできたので、
(空気を下に向かって噴射して水の上とかを走る乗り物だよ。多分この世界にもあると思うぞ)
「後で調べておきましょう」
少し興味を持ったのかふむとナナエ。ハイリが続けて、
「そんなに神々様は力を貸してくれるのか?」
「うん。こないだのでっかい破蓋さんと戦って足が動くようになってからどんどん助けてくれるんだよね。あまり力ばかり借りてても悪いかなと思うんだけど」
「ウィ……ウィ」
「ヒアリさんは史上最大の適正値を持っていますから、神々様に好かれやすい体質なので向こうからいいよってくるんでしょうね」
マルの通訳。と、ミミミはチャーハンを食い終わって今度は豚汁をすすっていた。どんだけ食うつもりだよ。
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