第140話 おっさん、ケンカを売る

 ミミミはしばらくテクニカルをいじっていたが、


「……ウィ」

「機関が完全に壊れてしまっているので修理するよりも新しい自動車を調達してそこに対空機関砲を載せ替えたほうがてっとり早いそうです」


 マルの通訳にナナエもテクニカルの様子を見るが、荷台に大穴が空いてしまい、完全に壊れてしまっていた。どうやらここにエンジンがあったらしい。


 ここでハイリがパンパンと手を叩いて、


「とりあえずさー、一旦寮に帰ろうぜ。いい加減あたしも疲れたし、たまには野宿じゃなくて家でぐっすり眠りたいんだよ」

「賛成ですね」

「……ウィ」


 マルは同調するが、ミミミはどこか不満げだ。自分の作ったものが壊されてここに放置するのが気に入らないのだろう。


 そんなミミミの背中をハイリは叩いて、


「まーまー、今ここでできることはもうないじゃん? 一旦帰って作戦を練り直そうぜー。こないだ見た大穴の底の映像とか解析したりして、次に作るものも考えなきゃならないし。あのマグマの谷底みたいなところを突破するのは簡単じゃないしな」

「……底に降りるつもりですか!?」


 突如のハイリの構想にナナエは仰天する。大穴の底。そこがどこかと通じて破蓋が通ってくるんだが、今回のおもちゃ戦艦破蓋の情報を得たときに偶然底が見えてしまった。

 

 一面に広がる溶岩の海。そして、その中にぽっかり空いた穴。恐らく、あそこが大穴の底と言っていい場所だろう。その先が破蓋のいる領域になるはずだ。


 ハイリはぐっと拳を握ると、


「もうここで破蓋を追い払い続けるのはもう飽きた! 何十年も戦い続けている英女が泣く姿を終わらせたい! というわけで、あたしは宣言する! 次の作戦は大穴の底を塞いでこれ以上破蓋がこの世界に入ってこれないようにすることだ!」

「おー!」


 それを聞いてことの重大さをわかっているのかわかってないのか、ただただ驚いてガッツポーズをするヒアリ。


 ナナエはあまりにも大きい構想に少し困惑していたようだったので、


(まあいいじゃん? できるかできないか検討する前にできないと言っても仕方がないだろう。とりあえずまずできるのかを話し合うことから始めりゃいい)


 俺がそういうとナナエははぁとため息をついて、


「そうですね。私も沢山の仲間を失ってきました。それに報いるためにも反撃に転じる時が来たのかもしれません」


 そう言って力を込める。ヒアリも手を降って、


「私も私も! 私に力を貸してくれている神々様もみんな力を貸してくれるって言ってるよ! だからもっと強くなって、破蓋さんをこの世界に入ってこれなくすることができなくなるよ!」


 そう自信ありと鼻息を荒くした。


 これで決まりだな。次――というか最終ミッションか。

 破蓋をこの世界に入ってこれないようにする。これが終わればこの英女の戦いは終わる。今まで人類がなし得なかったことをこんな年端もいかない少女たちがやろうとしているんだから滑稽な話だ。

 だが、一緒にいた俺から考えると本当に出来てしまいそうな気がしてるんだよ。こいつらならできそうにもないことを平然とやってしまえそうな、そんな予感がしてくる。


「というわけで寮に帰り作戦を――」


 そうナナエが言おうとした瞬間、携帯端末から不吉な音楽が流れ出す。どうやらまた破蓋が浮上してきたらしい。

 ナナエはがっくりと肩を落としてしまい、


「全く破蓋というものは本当に空気を読まない存在ですね……」


 そういいながら携帯端末で破蓋の情報を確認する。横から覗き込んでいたヒアリが、


「これこないだも戦ったハサミさんだね!」

「新型ではないが不幸中の幸いです。ではさっさと片付けてきましょう!」


 そう言ってナナエとヒアリ(と俺)は装備を整えると、第5層まで降下していった。

 この破蓋はいつも出るやつだから二人に任せておこう。その間に俺はつらつらと考えていく。


 細かい事情はわからん。だが、あのときの破蓋の呼びかけははっきりと俺に向けられ、そして、拒絶すると混乱していたように感じた。なんで破蓋なのにその声似従わないのかって感じで。

 

 こういう流れではもはや否定することは出来ないだろう。俺が破蓋で間違いない。なんで団地で掃除して死んだ末路がこうなっているのかわからないが。


 ただ一つ言えることがある。

 俺は破蓋の連中のところにはいかない。このままなナナエの中にいるのも嫌だがな。


 俺はあいつらにケンカを売ることに決めたんだ。


~「第4章 おっさん里帰り」するに続く~

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