第139話 ミミミの声
(あー、終わった終わった)
ナナエとヒアリ(と俺)は第3層まで戻ってきていた。
おもちゃ戦艦破蓋は核を破壊した後に崩壊して大穴の底へと落下していった。ようやく長かったロボット破蓋との戦いが終わったのだ。
(ほんっとに長い戦いだった。もーやだ、帰って家でゴロゴロしたい)
「破蓋との戦いはまだまだ続きますよ。そのような弱音は吐いては駄目です」
(弱音ぐらい吐かせろや)
そこに床に座り込んでいるハイリがいたので、俺達が駆け寄ると、
「よー、無事だったみたいだな。一回妨害電波が効かなくなって焦ったよ」
そうケラケラ笑っている。
ナナエはそんなハイリに深々とお辞儀をして、
「ありがとうございました。おかげで無事に破蓋を破却することに成功しました。ハイリさんや工作部の方々には感謝しきれません」
「ハイリちゃんすっごーい!」
一方ヒアリがハイリに抱きついてスリスリしている。ハイリはさすがにちょっと恥ずかしいのか困り顔になっていた。
ふと、ここで駆け足でミミミとマルが階段を降りてきているのが見えた。ほどなくして第3層までたどり着き、こっちに一直線に向かってきている。
ん? なんかミミミのやつの顔がいつもと違って怒っているような……
そして、ミミミはハイリのところまで来ると突然胸ぐらを掴み上げたかと思うと、
「てめえ! ふざけんなよ! あんなところから飛び降りるとか死にてえのか!?」
いきなりミミミからとんでもない罵声が放たれて、俺もナナエもヒアリも完全に思考が停止してしまった。えっ、なにこれ。
さらにミミミはハイリの身体を揺さぶり、
「もし少しでも風に煽られたりしたらそのまま壁に激突してたんだぞ! あたしらは英女でもなんでもねえんだ! 階段の角にちょっとでもかすれば皮膚が切り裂かれて出血多量で死んでたんだぞ! ふざけやがって、どんだけあたしが肝を冷やしたと思ってんだこの野郎!」
顔を真赤にして涙目で罵倒しまくるミミミ。
これにハイリはバツの悪そうに頬をかくと、
「……ミミミの言葉は久々に聞いたなー」
「私はいつも聞いてますけどね」
あとからついてきたマルがそうなぜかニッコリと勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。一方のミミミは怒りが収まらないようで、
「工作部は誰一人かけちゃいけねえんだよ! あたしらは三人で工作部なんだ! 勝手にいなくなるなんて絶対に許さねえからな! いいか!? 次勝手に危険なことをしてみろ! お前が死ぬ前にあたしがてめーを殺してやる! 絶対にな!」
俺らがぽかーんとしているのに気がついたミミミは少し赤くなってから、
「……ウィ!」
そう言ってからスタスタと歩き、ひっくり返ったテクニカルの様子を見始めた。
「あ、あの、あれは一体……?」
困惑の極み状態だったナナエがそう聞くと、代わりにマルが、
「あれがミミミさんの素の口調ですよ。最初にあったときから昔からあんな感じなんですね」
「あのあのっ。ちょっと驚いちゃっただけで、ミミミちゃんの口調も素敵だと思うよ」
驚いてしまったことを気にしているのだろう、ヒアリがあたふたとフォローし始めるが、マルは首を振って、
「気遣いはいりません。あの口調が他人を驚かせて、傷つかせることはミミミさんだってわかっているんです」
「ではなぜあのような乱暴な口調を?」
ナナエの問に、マルはすっとテクニカルをいじっているミミミを見て、
「ミミミさんは職人一家で生まれたんです。母親似になったので見た目はおとなしく清楚に見えるんですが、頑固であらっぽい職人である父親の方に入れ込んでいって、機械いじりの技術を教えてもらったそうです。そうやっているうちにあんな口調が移ってしまったんですね。本来であれば使い分ければいいんですが、父親を尊敬しているミミミさんはこの口調も受け継いだものとして考えていたので、それはできなかった。でも、そのままの口調では相手を不快にさせてしまう。ミミミさんはそうやって悩み苦しんだそうです。で、その末が――」
(ウィとしか言えなくなったってことか)
俺はだいたい事情を察した。俺も働いていた底辺現場には口調のあらっぽいやつが多かったからなぁ。クソガキだのバカヤローだのぶっとばすぞだの飛び交っていてうんざりしたものだ。ミミミは父親から得られたものと、周りへの気遣いの板挟みになってしまったんだろうな。
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