第138話 おもちゃ戦艦破蓋5
――なぜだ――
――おかしい――
――どうして――
――ありえない――
なんだかよくわからないがこの声の主はひどく混乱しているような気がする。俺が従えという言葉を拒絶したからか? 今でも従ったほうがいいという本能の呼びかけは続いているが、俺が破蓋のせいで不愉快になった記憶の方が上回って、冗談じゃないという答えしか出てこない。
――突然視界が変わる。しばらくグネグネと周りが動いていたが、やがてまた大穴の中に戻っていることに気がついた。おもちゃ戦艦破蓋の上に立ったままで何も変わってない……
(おじさんっ!)
さっきからナナエがおじさん連発していて聞き飽きてきた。まあそれはさておき、俺はなんとなくナナエの声につられて周りを見てみる。
「げえっ!」
気がついたら周囲にはロボット破蓋が数え切れないほど集まり、俺とナナエを取り囲んでいた。ちょっと待てなんでこいつら動けてんの!?
(ナナエ大丈夫か!? 悪い! さっきまで妨害電波で破蓋の動きを止められたんだけど急に効かなくなったんだよ! ミミミいわく、遠隔操作している電波の周波数とかが変わったんじゃないかとか言ってて、今は調べてる! ちょっと時間がかかりそうだ!)
謎空間に取り込まれていた間に、そんなやべーことになってたのかよ。やべーマジやべーぞこれ。
俺があたふたとしている間にロボット破蓋の1機がヒートサーベルで切りかかってきた。俺は慌ててナナエに身体の主導権を返そうとした――
その瞬間。
「――――え?」
突然、すぐとなりをヒアリが歩いて通り過ぎる――勘違いじゃない、はっきりとヒアリは自分の足で歩いていた。
そして、振り下ろされたヒートサーベルを鉈でいとも簡単に受け止めて、と思ったらヒートサーベルを真っ二つにし、さらにロボット破蓋まで真っ二つになる。スラスターが損壊したせいで爆発し、そのロボット破蓋はバラバラになって大穴の底へと落ちていった。
「ひ、ヒアリ……か? 歩けるのか?」
俺がそう声を掛けると、ヒアリはくるりとこっちを向き、
「そうだよ、おじさん。もう私は大丈夫――」
そういいかけてからヒアリは少し首を傾げた後に、
「違うかな。私じゃなくて、私に力を貸してくれる神々様がもう大丈夫だって言ってるよ」
(どういうことです……?)
ナナエが困惑しているが、それにヒアリは少し考えてから、
「私にはたくさんの神々様が力を貸してくれてるんだ。でもあの破蓋さんの声を聞いた一つの神々様がちょっとだけ迷っちゃったんだって。あの声に従うべきじゃないのかって。それでずっと悩んでいたのが私の身体に悪影響を与えちゃっていたみたい。でも、もう大丈夫。おじさんの言葉を聞いて、この声に従わなくても良いんだってわかったんだって。だからもう迷わない――」
そして、ヒアリはニッコリ微笑んでから、
「私のことを守りたいって。おじさんのおかげだよ」
「……そうかい」
よくわからんが、ヒアリが復活したなら万々歳だ。
俺はぐるりと周りを見る。まだ無数のロボット破蓋に囲まれている状態だ。さて、これをどうやって切り抜けるか……
ここでヒアリが一気に飛び出す。歩けるようになったので肩につけていた触手みたいな歩行補助装置はすでにないが、両手につけてあるワイヤー発射機はそのままだったので、それを使って華麗に空中で動き回る。
ロボット破蓋も一斉にヒアリに向かって攻撃を仕掛けるが、ヒアリはそれらをすべて避けきり、1機ずつ叩き切っていった。
そして数十秒後にヒアリが再びおもちゃ戦艦破蓋の上に戻ってきたときにはロボット破蓋すべてが破壊されている。
「……どのくらいやったんだ?」
(……軽く30は倒したと思います)
俺とナナエはその強さに唖然とするしかない。元々両足が動かない状態でも前より明らかに強くなっていたヒアリだったので、両足が復活すれば更に強くなるのは道理だが、これは予想を遥かに超えている。
まあそんな驚きは後で良い。また次々とロボット破蓋がカタパルトの部分から発進していくので、いくらヒアリが強くてもそのうち持たなくなる。
が、ここでまたロボット破蓋がコントロールを失って墜落していくようになった。
『聞こえるかー? またうまく電波妨害できているようだけど、しばらくしたら効かなくなるかもしれないから気をつけてくれよー』
ハイリからの連絡で工作部がまたうまくやってくれたようだ。
「……さて。返すぞ」
(はい)
俺はナナエに身体の主導権を返す。
そして、ナナエはおもちゃ戦艦破蓋に空いたままの穴を覗き込んだ。そこには破蓋の弱点である赤い玉――核が浮かんでいる。
――なぜ従わない。それでいいのか――
また声が聞こえた。だが、その言葉に俺や神々様が応じることはない。
ナナエは大口径対物狙撃銃を構えると、
「従いません。私は私が守りたいものをすべて守るためにあなた達を倒します」
(当然。俺はここのほうがいい。お前らなんぞといるぐらいならな)
そう俺たちはいい切ってから引き金を引いた。
「破却します!」
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