第135話 おもちゃ戦艦破蓋2

 すでにおもちゃ戦艦破蓋はだい5層に到達している。あまりに巨大なため、ところどころ大穴の中心に向けて飛び出すように作ってある陣地をすべて破壊しながら浮上を続けていた。幸いなことにこいつの移動速度が遅いため、俺達のいる第3層にたどり着くまでは時間がかかる。


 しかし……


「これでは本体に攻撃する余裕がありません!」


 ナナエが苛立って叫ぶのも無理がない。なんせロボット破蓋が本体のおもちゃ戦艦破蓋から次々と飛び出してくるので、そいつを撃墜するだけで手一杯だ。

 そんな中、本体は着実に浮上し続けている。このままでは……


 そう思った瞬間だった。目の前にロボット破蓋が突然現れる。どうやら撃ち漏らしたがやってきたらしい。

 ナナエは即座に近くにおいてあった大口径対物ライフルを掴むと、ロボット破蓋のスラスターめがけて発砲。すぐに大爆発して落下していく。


 だが、次の瞬間、今までとは桁違いな数の銃弾が打ち上げられてくる。慌ててヒアリがテクニカルを走らせて避けるものの一気に足場がボロボロになってしまった。


(おいおい、このままだと足場がメチャクチャだぞ。最悪この車が移動できなくなる)

「わかっていますが――」


 唐突にテクニカルが大きく持ち上がった。そして激しい銃弾を浴びせられ、一気に転倒してしまう。だが、命の危機に慣れっこな俺とナナエはすんでのところで身体の主導権を交換した。


「いてっ! あたたたたた……ヒアリ、大丈夫か!」


 俺がそう呼びかけると。転倒した運転席からひょっこりと顔を出してきて、


「なんとか大丈夫だよっ。でもちょっと驚いちゃったかな、ふひー」


 割と余裕そうで助かった。

 二人とも横転したテクニカルから這い出るが、ドアが吹っ飛び、対空機関砲も倒れた衝撃で荷台から落ちてしまっている。幸い痛みが弱かったので即座にナナエに身体の主導権を返す。


「……これでは再び動かすのは無理でしょう」


 ナナエが唇を噛む。ヒアリもなんとかいい手がないのかずっと考えている。

 まずい、まずいまずいまずい。下を見ればおもちゃ戦艦破蓋が乱射しながら、次々とロボット破蓋を出撃させている。このままでは物量差で圧倒される。


 その時だった。


『悪い、遅れた! 第1層にいるぞ!』


 唐突に通信機に声が入る。ハイリだ。どうやらブツを受け取って戻ってきたらしい。


 ナナエは少し表情が明るくなり、


「ハイリさん、目的のものは?」

『バッチリだ! 説明書も読んだしすぐに使える状態だぞ!』

「では第2層まで降りてきてください。それよりも下は危険なのでミミミさんたちと合流を。私達はできるだけここで破蓋を食い止めます」


 そう指示するが、ハイリは少し沈黙したのちに、


『……それじゃ破蓋の本体が第3層にたどり着くまで間に合わないだろー! 今からここから飛び降りる! そうすりゃあっという間にナナエのところに行けるからな! 悪いけど途中で受け止めてくれ!』

「ちょっ――何を言っているんですか!」


 ナナエが静止するが、ハイリはお構いなしに、


『あーらよっと!』


 そう叫んだ。おいおい、マジで飛び降りる気か!? ロボット破蓋が飛び交って、おもちゃ戦艦破蓋の攻撃も続いていて、下手したらそのまま大穴の底まで落ちるんだぞ! しかも、英女じゃないただの人間がだ!


 当然、破蓋はこっちの様子を黙ってみているわけがなく、ロボット破蓋3機が一気に第3層に浮上してくる。


「ヒアリさん!」

「任せて!」


 すぐさまヒアリは動かない足を補助歩行装置でフォローして立ち上がり、一気にロボット破蓋3機に飛びかかる。両手のワイヤー発射機をフルに活用して大穴を飛び交い、一瞬で3機をバラバラにしてしまった。だが、またおもちゃ戦艦破蓋から次々とロボット破蓋が出撃してくる。


 ロボット破蓋の攻撃が一瞬途切れたのを見計らいナナエは大穴の上を見上げる。するとものすごい勢いでハイリが落ちてきていた。


 ナナエは即座に勢いをつけて大きく上にジャンプして、ハイリを受け止める。


「――一体何を考えているんですか! 死んだらどうするんですか!」


 そうハイリに思わず感情的になってしまうが、ハイリはさすがに怖かったのか少し表情が震え気味ながらもぐっと親指を立て、


「死ぬことはない! だってナナエやヒアリが絶対に受け止めるって信じて――いや確信していたからな、はっはっは! 生存確率は10割だ! でなけりゃ飛び降りたりなんてしないぞー!」


 そう笑うハイリにナナエは呆れを超えて頭を抱えてしまう。だが、そんなことをやっている場合はない。ナナエはすぐにハイリを第3層に下ろす。

 そして、ハイリは背中に背負っていた装置を下ろすと、


「さて……ミミミからお前ら破蓋に強烈な一撃だ! たっぷり味わえよー!」


 そう叫び、装置を起動させた。

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