第133話 爆破作戦

 推論の話は脇においておいて、工作部たちは高性能爆弾の開発を始める。

 日々爆弾を作っては大穴の底に落とし、破蓋の本体が浮上してこないか確かめることに繰り返しだ。


 その間、ナナエとヒアリは遠隔通信での学校の授業を受けて過ごしている。

 そんなことを続けてもう一週間が経過しようとしていた。何度かロボット破蓋が浮上してきてそのたびに作業が中断したものの、幸いなことに長時間しつこく浮上してくることはなかったので、大きな遅延は起きてない。


 今日も爆弾を数個落として大穴の様子をうかがっていた。ちなみにヒアリは今はお昼寝の最中だ。


(おじさん)

(なっ、なんだよ……)


 いきなり声をかけられてビビる俺。ナナエは少しため息をついてから、


(おじさんが破蓋の可能性という件、別に気にする必要はありませんよ。前にもこういった話はしていましたし、ただミミミさんが同じ推測を唱えたと言うだけのことです)

(わかってる。わかってるんだが……)


 どうにも歯切れの悪い言葉しか返せない。ナナエはため息をついて、


(確かに破蓋は私の仲間の命をたくさん奪っていきました。私が英女になる前にも数え切れないほどの英女が戦死しています。ですが――だからといっておじさんを恨んだりするほど愚かではありません。憎むべきなのはこちらに敵対してきた破蓋であって、敵対していないおじさんではないんです)


 そして、ナナエは自信を込めて、


(それにヒアリさんの言ったことも事実でしょう。おじさんが破蓋ならば、わたしたちと話ができる――つまり交渉が可能ということになります。断言していいですが、ミナミさんも他の死んでいった仲間たちもみんなその方がいいといいますよ)


 励ましてくれているのではなく本当にそう思っているんだろうと感じる。

 でも。それはナナエや英女みたいないい子たちだからだろう。俺みたいな性格のねじ曲がったやつがそんな考え方に変われるのは容易じゃない。

 とはいえナナエをこれ以上困らせても仕方ないので、


(……そうかい)


 そうとだけ言っておいた。


「ウーィ」

「新しいのができたので投下をお願いします」


 そこにミミミとマルがまた作った爆弾を持ってきたので、ナナエが大穴の中心部めがけて落とす。


 しばらくしたあとにどーんという爆発音がここまで聞こえてきた。それを聞いていたナナエは耳を澄ませて、


「……落とすたびにここまで聞こえてくる爆発音が大きくなっている気がしますが……」

「ウィッ!」

「最初に作ったのに比べて今のは威力が数十倍になっているので当然だ、そうです」

「失敗してここで誘爆とかやめてくださいよ。皆死んでしまいます」


 自信満々なミミミに若干不安を憶えてしまっているナナエ。

 その音で目を覚ましたヒアリがテントの中から補助歩行装置をつけて出てくると、


「あれ、ハイリちゃんは?」


 そうキョロキョロと辺りを見回す。ナナエは寝癖がついたままのヒアリの髪を整えつつ、


「今ちょっと物資を取りに上に出ています。すぐに戻ってくるでしょう」


 実はこの一週間、爆弾づくりと並行してロボット破蓋の本体との決戦に備えて、いろいろな作戦を組み上げていた。その中でうまくいくかもしれないってことで、先生経由で新しいブツを手に入れたので、ハイリが取りに行ってる。


 ここで急にナナエとヒアリの携帯端末から不吉なメロディーが流れ出した。同時にマルが端末を確認して、


「最深観測所で破蓋の浮上を確認しました。大きさは前例がないほど巨大です」

「……どうやらうまく行ったようですね」


 ナナエの言葉に力が籠もる。

 最深観測所から送られてきたデータでは探査機を落としたときに映し出されていたロボット破蓋の本体そのものの姿が映し出されていた。画像があまり鮮明じゃないにもかかわらずその巨大な躯体から凄まじい威圧感を感じる。こいつはかなりの強敵の匂いがする。


 姿はよくアニメで見る母艦そのものだ。前面には2つの細長い板のようなものがある――ああそうだ、カタパルトとかいうやつだ。あそこにロボットが乗っていっきまーすとか言って出撃するんだよな。恐らくロボット破蓋もあそこから出てくるんだろう。

 確かこういうのは強襲揚陸艦とかそんな呼び方をするんじゃなかったかな。でも面倒だからおもちゃ戦艦破蓋とでも呼んでおくか。


 破蓋襲来にまだ寝ぼけ気味だったヒアリもきっと顔を引き締めて、即座にテクニカルの運転席に座る。そして、ナナエも荷台に乗って対空機関砲を構えた。ミミミとマルはすぐに上の方へと走って対比していく。


「さあ、決着をつけましょう!」


 そうナナエは破蓋に向けて言い放った。このぐだぐだで長ったらしいロボット破蓋の相手をするのはこれで終わりだ。

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