第130話 先生?
『ちょっと、今忙しいんだけど』
「まあまあそんな不機嫌な顔してないでちょっとだけ聞きたいことがあるんだよ」
『電話越しで顔なんて見えないでしょ』
ぶーぶー不満を漏らすクロエだったが、ハイリの話を聞いて少し考えてから、
『鉄骨による防壁? 最深観測所の少し下に? そんなの聞いたことないわよ』
そう知らないようだった。これにミミミがマルにボソボソを何かを伝えてから、
「ここ10年から20年の間になにか大穴で変わったことがなかったか知りませんか? この鉄骨の防御柵は大穴での戦闘や修繕の記録にも全く残っていません。かといってかなり初期に作られているほど古いものでもありません。それなりに手間のかかっている作業なので噂話ぐらいは残っていてもおかしくないはずです」
そうハイリから電話を借りてクロエに話す。
『ちょっと待って。ちょうど会長が近くにいるから聞いてみるから。あの人が知らなければ今のこの学校で知っている人はいないでしょ』
そう言ってしばらく声が遠ざかる。
(会長って生徒会長のことだろ? この学校の支配者ってところか)
(英女学校にそういった立場の人はいませんよ。生徒たちの代表であり、生徒たちの要望を規則に合わせて取り上げていったり、学校行事の統率を行うぐらいです)
(本当か? 俺の世界では生徒会の監視がゆるいからって学校から出た予算を横領している悪ガキとかいたらしいぜ?)
(おじさんの世界は本当に後ろ暗くて嫌になりますよ)
俺とナナエがだべってると、クロエが電話に戻ってきて、
『ダメ。そんな話聞いたことないってさ。ただ大穴じゃないけど英女絡みならあったわね』
「それはなんでしょうか?」
『前にも話したとおり先生が学校に立てこもって暴れたことよ。あんたらが言ってた時期にあった記録に残ってない騒動なんてそのぐらい。あれは書類上からは抹消されているからね』
「わかりました。ありがとうございます」
そう言ってマルはハイリに電話を返す。
先生が暴れた……か。確か適正値が下がりすぎて学校にいられなくなったから追い出されそうになったが、銃を振り回して学校の教室に立てこもったって話だったな。
(先生に聞いてみたほうがいいんじゃね。あー、でも暴れた件は言わないほうがいいぞ。話がややこしくなったら面倒だしな)
「そうですね」
ナナエはすぐに先生に電話をかけてみる。
「あ、先生ちょっと聞きたいことがあるのですが……」
そう破蓋の本体が見つかったことと、鉄骨の話をしてみる。
『…………』
その話を聞いた先生は無言だった。考え事をしているのか、それとも絶句しているのか顔が見えないからわからないが……
「先生?」
ナナエが呼びかけると、
『……あっ、はい。鉄骨については私も知りません。力になれなくてごめんなさい』
「……いえ。わかりましたありがとうございます」
そこで通話を終える。
(なんか隠してる感じだったな)
「珍しくおじさんと意見が合いましたね。確かに今のは嘘に聞こえました」
俺とナナエの考えが一致する。さらに工作部もその話をすると、
「この状況で一体何を隠すと言うんですか……っ!」
マルがわなわなと肩を震わせて耳まで真っ赤になってしまった。相変わらず激情家なやつである。それをミミミがウィウィと背中を擦って落ち着かせていた。
一方のハイリはいつもの通り飄々としたまま、
「記録からも抹殺された事件の元凶があの鉄骨についてなにか隠しているかもしれないか。こりゃあたしらの方で探りを入れてみたほうがいいかもなー。でもさ、今は破蓋を倒すほうが先だし、今は脇においておこうぜ」
そう後回しにすることになった。まあ今はロボット破蓋の母艦を倒してまともな生活に戻るほうが優先だしな。
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一方、先生は震える手を抑えていた。
「あの防御陣地……まだ残っていたんだ……」
同時に先生に数々のフラッシュバックが起きる――
「本当に嫌な記憶……」
そう言って頭を振るって追い払った。
自分の罪は重い。そんな事はわかっている。でもそれ以上に悪いのはこんな状況のまま何も解決できないこの世界の方だ。
そう考えると、先生の中で心が落ち着いていくのを感じた。
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