第129話 調査開始
その後一週間。途中で4回の破蓋の戦闘があっていろいろ遅延したり、そのたびにクロエが生徒を引き連れて物資を持ってくれて協力してもらったりして、ついに工作部が作っていた大穴の底を調べるための探査機が完成する。
「おー、すっごーい!」
ヒアリが地面に置かれた探査機をマジマジと見ていた。作り自体はシンプルででかい鍋の上に耐熱ガラスの蓋をつけ、そこに高性能のカメラ3台を置いて、真下と両サイドを撮影できるようにしてある。あとは鍋の底に設置されている機器に録画データを集め、それを無線電波でここまで送信してくる。よくこんなもん作れるなといつも感心してしまう。
「では、これを落とせばいいんですね」
ナナエはそれを運ぼうとするが、ハイリが待ったをかけて、
「できれば大穴の中心部に落としたいんだよ。途中で壁にぶつかって壊れたら意味ないしさー」
「わかりました」
その話に頷いたナナエは大穴の反対側の足場まで一気に大きく飛ぶ。そして、ちょうど大穴の中間辺りにたどり着いた瞬間に探索機を落とした。
すぐにハイリたちのところに戻ると、ヒアリと工作部がパソコンらしきものの画面を見ている。カクカクした画像が表示されていた。落下中の探索機からの画像が送られてきているようだ。
5人で固唾を飲んで画面をみていると、
「あ!」
「ウィ」
ヒアリとミミミが声を上げた。ワンテンポ遅れて俺も気がついた。大穴の下の方に何かがあるのが見える。そして、画像が更新されるたびにどんどん大きく――近づいていっている。
やがて探索機はそれに直撃してバウンドしたらしく、送られてくる画像が激しく乱れたものになった。その後、何かの上を探査機がゴロゴロ転がっている感じの画像になる。
そこでミミミが送られきた画像を巻き戻して確認していたが、
「ウィウィウィ!」
なにか興奮気味に画面を指さしていた。マルがそれを確かめると、
「探査機が転がっているところが恐らく破蓋の本体の上でしょう。かなり大きいですね……恐らく大穴の直径の8割近い幅があると思います」
「8割!?」
ナナエが仰天してしまう。大穴の直径は数百メートルだ。てことはこの破蓋の本体も数百メートルクラスってことになる。俺が見てきた破蓋で一番大きかったのがガスコンロ破蓋だったがそれでもせいぜい20メートルぐらいだ。
(過去にこのぐらいの大きさの破蓋はいなかったのか?)
(全くいません。最も大きくて50米でした。縦に長い破蓋はいましたがそれでも100米と言ったところです)
米っていうのはこの国のメートルのことだったよな。てことは幅が広い破蓋としては過去最高記録を遥かに超えるぐらいのデカさってことかよ。
ここでヒアリが首を傾げて、
「でもでも、なんでそのでっかい破蓋さんはそこに止まってるの? 他の破蓋さんは止まらずにどんどん浮上してきたんだけど」
「それでちょっとした疑問です。見てください」
マルがナナエとヒアリにも画像データを見せる。落下ていた最中の画像で探査機の下部に設置されていたカメラが破蓋の姿を捉えていた。画質が微妙なので断言はできないが、アニメでよく出てくる母艦っぽいものに似てるように見える。
さらにマルは探査機が破蓋の本体に接触してからの画像を見せる。破蓋の上を転がりながら撮影されたものなので画像が無差別に撮影された不気味なものになってしまっていたが、
「うぃーーーーーーーぅい」
ミミミがそれらの画像とにらめっこしてなにかに気がついたらしい。マルがささっと通訳を始め、
「この場所には鉄骨が網のように張られているため、それに引っかかって浮上できてないのかと。ただ中心からかなりの範囲で破壊されているため、通常の大きさの破蓋は浮上できていたんだと思います。その残っている鉄骨に引っかかっているんですね」
「……鉄骨?」
ナナエが疑問符を浮かべる。
(なんかおかしいのか?)
「いえ……おかしいといいますか、この破蓋の本体は深度10000の最深観測所を通過したことを確認されていないので、それ以下の場所にいることになります。その下は高温地帯なので人間が入ることが出来ません。なのになぜそんなところに鉄骨が張り巡らされているんでしょうか……」
「私達も調べた限りこんなところに防衛陣地が構築されたという記録はありません。しかし、これは明らかに人間が作ったものですね」
「ウゥゥゥゥゥイ」
「多少の劣化を感じますが、そこまでの年月を感じさせません。恐らく十数年の間に設置されたものだとミミミさんは言ってます」
マルが画像をチェックしながら話す。ミミミもまた新たな情報がないかと思案顔のまま画面を注視している。
ナナエも考えていたが、
(おじさんが私に取り付く前にこっそりやったとかではありませんよね?)
(ねーよ。そもそも俺が破蓋の仲間だったとしても、なんで破蓋の浮上を阻止するような防御鉄骨を張り巡らせるんだ? これじゃ味方じゃなくて敵だろ)
(別におじさんが破蓋の仲間と疑っているわけではありませんよ。ただ素性は謎ですからね)
(まあそれについては俺もどうしてこうなっているのかさっぱりわからないから反論できないけど、とりあえず覚えている限りではこんなのは知らない)
(うーん……そうですよね……)
とりあえずナナエは納得する。だいたいあんなクソ重そうな鉄骨をこんなところまで運んでくるとか並の体力では不可能だ。英女ぐらいじゃないか?
ここでハイリがやってきて、
「とりあえずさー。普通の情報集めだとわからないからその筋のことに詳しい人から聞いてもらおうぜー」
そう言ってハイリは携帯電話を華麗に叩き始める。
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