第127話 戻ってこない

 ミミミの策をマルが話し始める。


「大穴の深度10000より下にいき調査を行うのは困難を超えて不可能です。しかし、それはあくまでも帰ってくることを前提とした場合です。つまり帰ってこなければいいだけのことになりますね」

「どういうことだー?」


 ハイリが理解できないとはてなマークを浮かべる。ナナエも同様でヒアリはなぜかコクコクと頷いている。


 マルは少し考えてから、


「つまりですね。無人機を降下させて深度10000以下に行き、そこで調査を行って情報を記録し、ここまで戻ってくるとなると無理でしょう。高温に耐えるような設計をすると当然重くなりますし」

「まあそうだなー」


 ハイリが頷く。マルは続けて、


「しかし、帰ってこない無人機を作ればこの問題は解決されます。録画と通信だけに特化した頑丈な装甲や部品を張り巡らせた端末を作り、大穴の下に降下させます。そして、落下中の映像を記録し、無線を使ってここまで送信させ続けます。こうすれば、10000より下でも調査は可能です」

「なるほど……」


 ナナエもふむと頷いて理解した。ヒアリも腕を組んでふむふむと頷いている。本当に理解しているんだろうか。まあ俺も結構怪しいところがあるけど。


(簡単に言うととりあえず頑丈なカメラ――録画機を穴に落として録画した情報を無線で送れってだけだろ。でも、そんなこと誰でも思いつくんじゃねーの? とっくに誰かやってそうだが)

「確かに」


 ナナエも俺の話に同意して他の連中に伝える。それにミミミがうなずき、


「ウィ」

「当然理解しています。これを思いついたのは私達のいる地球ではなく金星の大気を観測させるという計画を思い出したからなんです。人間が到底生存できない金星を調査するために探査機を降下させ、そこで得られた情報を地球に送信するという試みで数十分の記録に成功しています。この金星探査の計画はすでに数十年前に行われたものであり、当然その方法はおそらく大穴の調査でも使われていなければ不自然です」

「まー、深度10000以下が高熱地帯になっていることを調べた連中がいたってことだしな。やってて当然ってことか」


 ハイリが納得する。マルは続けて、


「しかし、今回は事情が違います。おそらく深度10000以下に破蓋が常駐している可能性を調査するということですから。破蓋の本体が本当にそこにいるのであれば、探査端末はおそらく破蓋にぶつかり、その瞬間の情報を記録して私達のところに送ることができるはずです」


 俺もマルの言っていることがほぼ理解できた。カメラを落として破蓋にぶつかるかどうかで存在を確認するってことだな。それなら俺たちは下にいかなくていいし、そんなに難しい装置が必要になることもないってことか。


 てか、


(この世界にも金星があったのかよ)

(私の世界を一体何だと思っているんですか)

(てっきりこの国が宇宙の中心になって周りの星が回っているとかそんなノリだと思ってた)

(そういう学説が一時期義務教育で教えられていた時代はあったそうですが……)

(あるの!?)

(その……あまりにも現実の科学と乖離して学力が下がるだけと指摘されて数年で廃止されたそうです)


 やれやれとナナエが肩をすくめる。宗教バカ国家とはいえ、そういう修正力が働くのはまだマシな方だな。


 ここでハイリがパンと手を叩くと、


「よーしじゃあさっさと作り始めようぜー。とりあえずここにあるものじゃ無理だから……」


 そういいながら携帯電話を取り出す。どうやら相手は風紀委員のクロエらしいが、


『人のことを物資の運搬係かなんかだと思ってるの!?』

「しゃーないじゃん。またあの破蓋が襲ってきたら大変だし待ってるのも性分じゃないし。だから超特急でよろしくー」


 そう言って一方的に切ってしまった。強引なやつだな。

 同時にナナエもミミミから必要なもののリストを受け取り、即座に先生に電話をかける。


「先生、必要な物資の情報を送りますので、早急に入手して大穴の第3層まで送ってきてください。いえ、予算とかは人類の命運がかかっているということで通しておいてください。届き次第、風紀委員の方に渡してもらえればいいだけです。よろしくお願いします」


 ナナエはさっさと要件を伝えて通話を終わらせてしまった。こいつもだんだん慣れてきてやがるな。

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