第126話 無理しちゃダメ

 ロボット破蓋の本体。それはおそらく目の前に広がる大穴の遥か下にいる可能性がある。そいつを倒さない限り、ロボット破蓋は永遠に浮上してきてはそれを撃破し続けなければならない。

 というわけでなんとか本体を倒さなければならないのだが……こないだもこの話をしていたが、破蓋がやってきたせいで中断していたな。


「ウーィ」

「そもそも本体があるかどうか確認できたわけではなく、あくまでも推測です。なのでまずはその推測が本当かどうか確認する必要があると言ってます」


 マルがそう説明する。毎回思うがミミミは「ウィ」しか言ってないのに明らかに文字数を遥かに超える通訳をしているのはどういうことなんだ。デタラメを言っているのかと一瞬思ったが、ミミミの方もこくこくと頷いているので間違ってないらしい。

 まあそんな事は後でいい。


 ナナエは一旦は頷くもののやや困った顔で、


「それは事実ですが、問題は方法ですね。こないだも話したとおり深度10000以下は人類では侵入できませんし……しかし、このままではこちらの身が持ちません。何か早急に手立てを撃たないと……」

「頑丈な無人機を作ってそこまで降下させるとか?」


 ハイリの提案にマルは首を振って、


「超高熱地帯を通れるような無人機を作れるのならとっくに実行されていますよ。ミミミさんでもそれは無理です」

「……ウィ」


 小さく同意するミミミ。やや申し訳なさげだ。

 ここでナナエが決意を固めて立ち上がり、


「人類が生存できない場所ということを考えれば、ここは私の出番でしょう。どうにかして破蓋がいると思われる場所まで降下し、本体の存在を確認してきます。危険ではありますが、他に手立てがない以上ためらっている場合ではありません」

(ちょっと待て。お前が行っても灼熱地獄のせいですぐにヘタれるだけだろ。誰が耐えるんだよ)

「おじさんに決まっているでしょう。私では動けなくなりますからね。最近暇そうにしていたのでたまには働いてください」

(前も言ったじゃねーか。嫌だよ絶対にごめんだ。数百度は軽くある糞熱い場所だろ? なんで俺がそんなことやらなきゃならないんだ)

「ヒアリさんたちや人類を守るためです。おじさんの痛みがそれを成し遂げるというのならば喜んで実践すべきですね」

(ストライキを起こすぞ。多少の痛いのは我慢するが、そんな溶鉱炉にダイブしてアイルビーバックみたいなのは限度を超えてるわ)

「ストライキとようこうろにだいぶとあいるびーばっくってなんですか」

(抗議して仕事をしない、鉄を溶かしている工場に飛び込むが俺は帰ってくるぞっていう意味)

「はあ。で、何が不満なんですか」

(全部だよ! 金がもらえるわけでもないのに)

「報酬が欲しいんですか? それならこないだ食べたあの肉を再度用意しても構いませんよ。それも3回分という条件ならどうでしょう」

(ぐっ……確かに魅力的な提案だが……いやいや、焼け死にに行くような作戦の報酬が厚切り高級肉では割があわない。却下だ)

「とはいえです! 他に手立てがない上に急がないとまずいんですから!」


 ナナエと俺がぎゃーぎゃー言い争っていたところで、ヒアリがすっとナナエの背中に寄りかかってきて、すっと耳元で、


「私も無理はしないって約束したんだから、ナナちゃんも無理しちゃダメ」

「ひうっ」


 なにか妙に寒気を感じるほどの怖い言葉だったので思わずナナエは変な声を上げてしまった。確かにヒアリとの約束を考えると耳が痛くなる。

 

 ここで俺は追い打ちを仕掛けるべく話を続け、


(大体俺が下までところで帰ってくる手段がないだろ。破蓋の本体を見つけてもそれを工作部やヒアリに伝えなければ意味がないわ)

「むう……戻る方法が必要ということになりますね」

(深度10000以上から戻ってくる方法なんてあるのか? 長い頑丈な縄をおろしたところで、高温地帯に入れば焼け切れちまうだろうし)

「むむむむ……」


 ナナエは頭を抱えてしまった。

 が、ここでミミミがぽんと手を打って立ち上がり興奮気味に、


「ウィ!ウィ!ウィ!」

「ミミミさん落ち着いてください」


 マルが頭をなでて落ち着かせると、ミミミはマルにボソボソと耳打ちし始める。ウィだけでは通じないようなことを説明しているのか?


 ナナエは少し長くなりそうだったのを見計らって、ハイリのところに近づくと、


「ミミミさんはなぜウィとしかいわないんですか? マルさんだけはそれ以外でも話しているようですが」

「あ、それは私も気になるー」


 途中からヒアリも首を突っ込んできた。

 それにハイリはしばらく考えてから、


「うーん、別に教えても良いんだけどさー、せっかくだからそのうちわかるまで楽しみは取っておけってことでよろしく」

「はあ」

「残念ー。気になるよぅ」


 そう断られて二人共素直に引き下がった。

 ミミミはウィとしか言わないんだが、普通に喋りたくない理由があるんだろう。例えば声が汚い――いやウィという言葉は普通の年相応の女の子の声だった。となるほど……


(もしかしたら英語――外国語しか話せないのかもしれないぞ)

(私達の国では神語以外は使用禁止ですよ。広告や掲示物にも使えませんし、教科書もすべて神語のみです。どこで学ぶんですか)

(実は親が外国出身でこの国に密入国しているとか?)

(……話が突拍子もなさすぎですよ)


 そんな話を俺とナナエがしていたら、マルがこちらに向き直り、


「話がまとまりましたので説明します」

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