第125話 声

「破蓋の……声?」


 数時間後、何やらいい匂いがするとナナエが目を覚ました。俺も視界が明るくなったのでつられて目を覚ましている。周りを見回したら工作部の連中が飯を作って食っていたので、その環に混じっていた。携帯コンロを使って作られた鮭と豚汁をウマウマ言いながらナナエが食っているが、身体の主導権を持ってない俺は何も感じないが惜しい。


(おい俺にも食わせろよ)

(ダメです。最近おじさんは何もしてませんからね。役になったらご褒美としてあげますよ)

(ちぇー)


 そんな話をしていたが、今のうちにこないだスマフォ破蓋との戦いで聞いた声について話してみてる。ちなみにヒアリはまだすやすやと寝息を立てたままだ。


 ナナエはやれやれとため息をついて、


「そういう話はもっと早くしてくださいよ」

(いろいろありすぎて追いつかなかったんだよ)

「何の話だー?」


 ハイリが首を突っ込んできたので、


「おじさんが前に破蓋らしき声を聞いたと言っているんです。『従え、そして、抗え』と」

「ふぃふぃ」


 これにガツガツと豚汁を食っているミミミ――ついさっきまでテクニカルを修理していたので全身が汚れまくり――が反応する。それをマルが通訳して、


「言葉の内容が矛盾していると言ってます。確かに変な言い方ですね」

「従えって破蓋に従えってことかー? でもそれで抗えってどういうことだろ」


 ハイリも頭にはてなマークを浮かべている。

 確かにそのとおりである。従えと言ったと思えば次が抗えである。意味がわからん。


「わっ!」


 ここで突然テントの中から短い悲鳴が聞こえてきた。見るとヒアリが寝袋のまま芋虫のように身体をくねらせている。どうやら起きたら身体が拘束されて驚いてしまっているらしい。


 そのあとナナエがヒアリを落ち着かせた後に外に連れてきた。ヒアリは寝癖がついた頭を掻きながら、


「すっごく寝ちゃったよ、てへへ~」

(かわいい)


 そんな仕草に俺は可愛いという感想しか出てこなかったが、ナナエが冷えた視線で、


(大変申し訳無いんですが、原子分解してくれませんか)

(丁寧な口調で物騒なこと言ってんじゃねーよ)


 俺らがそんなことを言い合っている間に、ハイリがヒアリにも飯を渡していた。

 ヒアリは空腹だったのかすぐに豚汁をあっという間に食べてしまい、


「おいしー! お料理得意なんだね!」

「おー、口にあったのなら嬉しいぞー。どんどん食え食え」


 ハイリが豚汁のおかわりを渡していた。さらにベーコンつき目玉焼きをコンロで焼いてそれも渡す。


「すっごーい! お外なのにこんなに何でも作れちゃうんだ!」


 ヒアリは目をキラキラさせながらそれを食べ始めた。ハイリはへへんと鼻を鳴らして、


「あたしら工作部は実験とかのために外で野宿することが結構あるからな。いつの間にか野外で食事を作ることにもなれちゃったって感じさ」

「ヒアリさん、あまり急いで食べると喉につまりますよ」


 マルが笑顔でそう言いながら麦茶を手渡していた。

 ここでナナエが話を戻して、


「ヒアリさんは破蓋からなにか声をかけられた覚えはありませんか? 私の中にいるおじさんが『従え、そして、抗え』と言われたそうです」


 そう言われてからヒアリは少し考えた後に、


「……う~ん、私は聞いたことないかな。でも……」

「でも?」


 ナナエが首をかしげると、ヒアリは少し視線を落として、


「その言葉、なにか怖い感じがする。あと私に力を貸してくれている神々様もすごいざわざわしている感じかな。普通の言葉ではないと思う」


 それを聞いて俺はふむと少し考える。


 神々様がざわめく。『従え、そして、抗え』という言葉に? てことはこの言葉は神々様に向かって言われていた言葉なのか。そして、破蓋が神々様を従わせようとしているとか? いやだったら抗えってなんだよ。やっぱり意味がわからん。


 俺が知恵熱を上げている一方でナナエも困惑して、


「……正直よくわかりませんね」

「ウィ」

「情報が足りなさすぎます。これでは推測も難しいでしょう」


 ミミミとマルも同意した。これを聞いたハイリがパンパンと手を叩いて、


「まあわからないことをぐだぐだ考えても仕方ないよな。飯食って次にやることを考えようぜー」


 そう言ってまたホワイトボードを取り出してキュッキュと文字を書き始める。


『今度こそ破蓋の本体を見つけよう』


 これを他の連中に見せながら、


「お次の議題はこいつだ」

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