第124話 キャンプ

 一通り話してから、学校側との映像を切る。ナナエたちは嬉しそうになっているが俺はこういうノリは苦手だな。まあ俺が話しているわけじゃないから別にいいんだけど。


 周囲ではミミミがテクニカルの修理を続けている。その脇には簡易型のトイレが置かれたが、さらにその隣には風呂まである。さらに少し離れたところでハイリとマルがテントを作っていた。俺の世界でもよくみたアウトドアで使うやつである。


(なんだかだんだんキャンプみたいになってきたな。こんなところで暮らすなんていろいろ負担が掛かりそうだからさっさと終わらせてえ)

(きゃんぷってなんですか)

(野宿)

(なるほど。健康上あまり良くはなさそうですが今は仕方がないでしょう)

(というかヒアリなんとかしないとな)


 ちらりと相変わらず地面にひっくり返ったまま寝息を立てているヒアリを見る。たまに「頑張る」とか「任せて」とか寝言を言っているが、夢の中でも人助けをしているのだろう。


 そこにハイリたちがやってきて、


「こっち寝床ができたからヒアリを連れて行くぞー」


 そう言いながらヒアリの身体を抱える。ナナエも同じく支えてテントのところまで運んでいった。


 そこでマルが寝袋を準備して待っていたので、その中にヒアリをうまく入れる。よっぽど疲れて熟睡していたのか全く目を覚ます気配がない。


 ふとハイリはペタペタとヒアリの足を触ると、


「全然怪我とかしている感じはないんだなー。動かなくなったってだけで普通の足のままって感じか?」

「はい。通常、使わなくなった場合筋力の低下などが起きるので次第に細くなりやつれた感じになると聞いていましたが、今の所そういった傾向は見れません」


 ヒアリの話にマルは思案顔で、


「……やはり普通の怪我というわけではないんですね。早く治す方法が見つかればいいですが」

「ナナエから見てなにか気がつくところはないのかよー。ちょっとの変化でもいいだけど」


 ハイリからそう言われて暫く考えるナナエと俺。しかし、別にヒアリの足に変化があった気がしない。


(おじさんはなにか気がついたことはありませんか? どんな些細なことでも良いんですが)

(いやーさっぱり気が付かないな。ヒアリはむしろ強くなっている感じだったし悪い影響が出てるように見えないし)


 俺がそう堪えるとナナエの視界が少し狭くなる。


(ん? なんだお前も眠いのか?)

「え……まあさすがに14時間も続けて戦ったせいか……あとヒアリさんの寝顔を見ていたら……なにか……眠気が移ったというか……)


 ナナエがうつらうつらしてきたところで、マルが待ってましたと寝袋を取り出し、


「大丈夫ですよ。破蓋は今の所浮上してくる気配がありませんから眠っておいてください」

「は……い……もし……破蓋が来たら……」

「きちんと蹴っ飛ばして起こしますので安心してもらっていいですよ♪」


 なぜか楽しげなマル。おいおい痛いのはやめてくれよ。ナナエの精神的ダメージでヘタれて動けなくなったら本末転倒だぞ。


 ナナエは自力で寝袋に潜り込む。この状態では俺に皮膚の感覚がないので寝心地はわからないが、ナナエの満足げな顔を見るといい感じなんだろう。


「おじさん……起きたらさっきの話を聞かせてもらいますからね……」

(あー、わかったわかった。今は寝とけ)


 俺がそう言うのと同時に視界が真っ暗になる。そして、ナナエの寝息だけが聞こえてくるようになった。


 この状態でも俺の意識があり耳から音が拾えているので、外からウィウィ言いながらテクニカルを修理しているミミミとそれを手伝っているハイリとマルの声が聞こえてくる。


 このままだと俺も暇でしかたがないので寝ることにした。

 そこでふと思い出す。スマフォを破蓋を倒すためにヒアリが激闘を続けいていたとき、ナナエは気絶して俺はただその戦闘の音だけを聞いていた。しかし、その中で聞こえたあの言葉。


 ――戦え。そして、従え。――


(不気味な声だったな……ってそういやこの話まだナナエたちにしてねえか)


 起きたらこの話をしてみよう。もしかしたらヒアリの足になにか関係があるのかもしれない。


 また脳裏にあの言葉が蘇る。俺はなぜか震えた感じになったので、さっさと眠りにつくことにした。

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