第123話 話を戻して

「で、ハイリさんたちはここで具体的にどうするつもりですか」


 話を戻して、本題に入る。俺とナナエがヒソヒソ会話をしている間に後からやってきた生徒たちがさらいろんなものを第3層に運んできていた。その中には建設現場でよく見かける簡易型の便所まである。


「さっきも言っただろー? ここにあたしらの臨時キャンプ場を設置するんだよ。ナナエやヒアリも一緒にしばらくここで暮らすのさ。毎度ここに来るのは面倒だろ? それに車両は外に持ち出すのが難しいんだから、ここで修理する必要がある。あたしらもここなら結構広く場所を取れるし開発するのも捗りそうだ。みんなでwin-winになるってことよ」

「うぃんうぃんってなんですか」


 そうハイリにナナエが尋ねると、


「どっちにとってもいいことだって意味だよ。外国の言葉だねー」

「政府の方針では外国語は教育も発声も禁止になっているので控えておいたほうがいいと思います。その……いろいろとハイリさんにとってまずいこともあるでしょうから」


 ナナエが歯切れの悪いことを言う。どうにもこの神国っていうのはちょっとイカれた宗教国家で言葉一つにもうるせーところらしいが、宗教バカなナナエが『そんな言葉を使うなー!』とか食ってかからずに、注意する程度なのが意外だ。案外神々様よりも友達優先なのかもしれない。


 これにハイリはケラケラ笑いながら、


「ああ、一応使わないようにしてるよ? でも電網から国外の情報を眺めると、ほとんど外国語なんだよな。それを翻訳ツール――翻訳道具を使ったり、それでもわからないときは電網で使える単語帳をめくって解読したりしているからつい外国語の言葉が出ちゃうんだよね」


 ハイリは後頭部をポリポリかきながらいう。ナナエはこれ以上突っ込むのはやめて、別の話題に入る。


「あと、それでは工作部の方々が授業に出ることができなくなってしまうので……」

「いいっていいって。どうせ授業サボりまくりで留年確実だしー、ハッハッハ」


 あっけらかんと答えるハイリにナナエは頭を抱えてしまい、


「そこで開き直らないでくださいよ……しかし、このままでは私とヒアリさんの授業が遅れてしまいます」

「ウィ!ウィ!」


 ここでミミミがテクニカルの修理をしながら大きな声でこっちに何かを言い始めている。マルがミミミに少し近づいてから、


「その件なら問題いりません。学校とここに回線を敷設しました。これで二人の教室に撮影機を設置し、そこの映像と音声をこの拠点に送り、設置した受像機を見れば、ここでも授業を受けることが可能です。まあそれでも体育や工作といったものは無理ですが……」


 その説明を聞いている間にハイリがせっせとテレビっぽいものを設置して大穴の上の方から垂れ下がっているケーブルを繋げる。

 すると、見慣れた学校の教室が映し出された。休み時間らしく、生徒たちは各々にくつろいでいた。カメラがおいてあるだけでなので向こうからの反応がない。

 ほどなくすると、教師(高等部の女子)がやってきて授業を始めようとしていたため、生徒たちが一斉に自分の椅子に座った。


『今日からミチカワさんは破蓋の討伐のために、大穴内部にしばらくとどまることになったため、学校には来れなくなります。代わりに後ろにおいてある録画機で授業内容を伝送することになりました。特に授業には変化はないのでいつもどおりにしてください』


 ここで教師が説明して生徒たちは『はい』とだけ答える――と思いきや複数の生徒たちが手を上げて、


『ミチカワさんと話したいんですけどいいですか?』

『励ましたいです!』


 そう言われた教師は仕方ないとうなずき、


『ちょっとだけですよ。ただしこちらの声や映像を送ることはできますが、向こうからはできませんので返事はないはずです』


 そう了承してしまったので、生徒たちは一斉にカメラの前に集まってきた。


『ミチカワさん大丈夫?』

『14時間も戦ったんだって?』

『みんな待ってるよ。ミチカワさんから助けが欲しいって言われたらみんなで大穴に行くからね』

『いつでも頼っていいよ』

『『『『がんばって!』』』』


 ナナエと俺はそんな生徒たちからの温かい言葉をテレビから受け取った。それにナナエは手を振って応えていた。

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