第121話 準備
ロボット破蓋との激闘14時間が終わり、動けなくなってしまったナナエとヒアリのところに工作部たちがやってくる。
「いやー大変だったなー。大丈夫か?」
「ええ……まあ」
ハイリの言葉にやつれた感じの言葉しか返せないナナエ。一方、ミミミは手に持っていた工作道具を片手に即座にテクニカルのチェックをし、おかしくなっていた場所の修理を始めた。あの何も言わずにさっさと自分の仕事を始める素早さは職人魂を感じる。
一方マルが手にしていた水筒からナナエに水を差し出し、
「どうぞ」
ナナエはそれを一心不乱に一気飲みする。そして、立ち上がろうとするがハイリが止めて、
「まあしばらく座っとけって。ミミミはもう作業を始めちゃったし終わるまではナナエたちに守ってもらわないといけないしさ。立っていても疲れるだけだろ?」
「それにヒアリさんはすでに立ち上がれないと思いますよ」
そう言ってマルと地面に座る。ヒアリを見てみると疲れがたまりすぎたのか地面にひっくり返ったまま寝息を立てていた。これではすぐに帰るのは難しい。
「……そうですね」
ナナエもそう崩した感じで地面に座る。そして、隣にマルとハイリも座った。同時にマルは手にしていた大型の端末――ノートPCっぽいものを操作し始めた。
「みなさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。無人機を操作しているぐらいだったし、それ以外は先頭をずっと見てただけでむしろ身体がなまっているぐらいだ」
「まあ寝れば十分でしょう、その程度は」
ナナエの問に、ハイリとマルは苦笑しながら答える。
ハイリはいつものように頭の上で腕を組むと、
「しっかし、今回は結構やばかったよなー。14時間もずっと戦い続けるなんて史上最長記録じゃないか?」
「そうですね。厳密に調べてはいませんが、私が英女になってからこれほど長い間戦ったことはなかったと思います。この調子では身が持ちません」
ナナエはそうため息をつく。
「さらに今回もあの破蓋の完全な撃破はできていません。このペースで毎回破蓋が浮上してくるとこちらが不利です。やはり本体を叩くしかないでしょう」
マルの言葉にナナエも頷く。
そんな中、俺は脳天気に、
(まあ俺は楽なんだけどな。このままナナエとヒアリと工作部の方々できっちり敵を倒していければ万々歳だ。痛くなくて助かる)
(……次の戦いのときにおじさんを餌にして破蓋の気をとらせる方法を使います)
(勘弁してくれよー)
そんな話をしていたら、階段をぞろぞろと大量の荷物を抱えた生徒たちの集団が降りて来ているのが目に止まった。先頭には風紀委員のクロエがいる。
「おーい、こっちこっち!」
ハイリが手を振ると、クロエはしかめっ面でやってきて、
「……英女の支援が必要だって聞いたからいろいろ持ってきたけど、これあんたちが使うものばっかりじゃないの?」
生徒たちがおろし始めた荷物は弾薬の他に食料と水、あと軽トラックの燃料。他にはなぜかちゃぶ台とか小型の自家発電機とかポット、でかい布みたいなのまである。
ハイリはすぐに駆け寄って荷物を受け取ろうとするが、クロエはさっとかわして、
「まさか変なことを考えているんじゃないでしょうね。何をするのかちゃんと教えたら渡すから」
「えー」
ハイリは口をとがらせて、
「ここで野宿するんだよ。ほら、破蓋がいつ来るのかわからないし、今回みたいな長期戦になるだろ? ならいっそのこと第3層で野営地を作っちゃえばいいじゃんってあたしらで考えたんだよ」
その説明にナナエが仰天して、
「ちょっと待ってください々様の力が強く働く神聖な大穴に人間の居住施設を作ってはいけませんよ!」
そう抗議するが、ハイリははっはっはと、
「細かいこと言いなさんなって。実際問題、今のままじゃ結構厳しい感じだろ? ナナエとヒアリはすげーけど人間だし、24時間戦えますかみたいなのは無理。だから、それを少しでも和らげないといけないわけさ。で、思いついたのがこれってわけ。あたしらにできるのは物資を運んだり支援したりするぐらいだしな」
「……学校の授業は?」
クロエが風紀委員オーラをむんむんさせるが、これにもハイリははっはっはと、
「授業なんて半年以上出てないぞ。前に出たのも健康診断のときだけだったからな。今更今更」
「開き直るなっ!」
そう拳でグリグリされるハイリだった。
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