第118話 指示待ち人間

「先生、工作部の人達と話し合って今後の破蓋との戦いのために必要なものを書類にまとめました。これらの購入と学校内への搬入をお願いします」


 ナナエから手渡された書類を見た先生は困った顔になり、


「これだけの数となると政府の方との調整が――」

「私達と人類の生命がかかってるんです。よろしくお願いします」

「……少々時間がかかると思ってください」

「待ってます」


 そうナナエは伝えるとさっさと先生の部屋から出る。先生の方はなんかため息をついていたようだが、こっちも生命がかかってるからやってもらうしかない。

 

 ナナエはつかつかと廊下を歩きながら、ヒソヒソ会話で、


(最近は先生のことがわかってきました。基本的にこちらから何かをしてくれと言わないと動いてくれません。今まで英女が破蓋を倒すべきだと考えていたので、あまり先生にお願いをしたりすることはなかったので、気が付きませんでした)

(そりゃ指示待ち人間ってやつかもな)

(どういう意味ですか?)


 ナナエは屋上に上がると持参していた弁当を開く。ちょうど昼休みなので飯を食いにきたのだ。

 ちなみにいつもくっついてきていたヒアリは、今日は自分のクラスで転入生の英女候補生の親睦会みたいなのをやってるので、久々のぼっち飯になっている。工作部の連中を誘うと思ったが、授業どころか昼飯も食わずに油まみれで何かを作っていて臭くて近寄れなかった。


 俺は話を続ける。


(指示をもらうまでなにもしない人のことだよ。決まったことを終わったらただ待ってるだけ)

(なるほど。自主性にかけるというわけですね。それは確かに先生にも当てはまりそうです)

(俺ら底辺仕事だとそういうのばっかりだから、対応のやり方もしっかりしてるんだけどな)

(興味深いですね。どうするんです?)

(指示出し人間を置いておくんだよ。作業が終わったら即座にあれやってこれやってと指示する人)

(……………)


 ナナエは額に指を当てて、


(それは……根本的な解決になってないのではないでしょうか)


 そんなナナエの反応に俺はもにょりながら、


(先生の話はおいておくとしてさぁ、俺は指示待ち人間自体に問題があるとは思えないんだよな。俺らみたいな底辺仕事をやっているのは、金を稼ぐためだけであって、契約した仕事以外には手を出さないのが当たり前だし。だから余計なことは良いから仕事の指示をしてくれって感じなんだよ)

(言っていることはわかりますが……おじさんの話はいつも納得出来ないことが多いですよ)


 ナナエはうーんと唸ってしまう。俺は話を続けて、


(しかしだ。底辺にはもっと厄介な連中がいる)

(それは?)

(無理です人間だ。この仕事やってくれと言っても、無理ですできませんとか返してくるやつ。ちゃんと事前に仕事内容を説明した上で現場に来たのになぜか仕事に無理と返してくるんだよ)

(それは……なぜその仕事を続けているんです?)

(さあ……俺にもわからん)


 ナナエは頭を抱えてしまい、


(おじさんの世界の底辺というものが一体どういうことなのか全く私には想像できません。まるで別の惑星か生態系の文化の話の気がしてきます)

(しなくていいぞ。この世界に俺らみたいなのがいないことを祈りたいし)


 ここで話を戻して、


(だからまああの先生が指示待ち人間ってならこっちが指示出し人間になってビシバシ指示や頼み事をしとけばなんとかなるってこった)

(はあ……まあそうするしかなさそうですね)


 やれやれとため息をつきながら弁当を食べ始めるナナエ。

 

 ただ。俺の頭に不安がよぎる。あの先生が元英女で適正値低下で神々様の力を失ったものの、ここを離れるのを拒絶して暴れたという話が本当なら指示待ち人間とは明らかに違う。何を考えているのかよくわからない部分が多い。この辺りは注意しておかないとならないかもな。

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