第116話 ロボット破蓋8
数日後、学校で授業を受けているときだった。ナナエの携帯電話から不吉な音が流れ始める。ロボット破蓋が浮上してきたのだろう。
「行ってきます」
「がんばって!」
「頑張れー!」
「私達もできることがあれば行ってね!」
黄色い声援を背にナナエがすぐさま教室を飛び出す。そして、学校の階が違うヒアリのところに向かい、すでに車椅子状態で待機していたので抱えるようにして走り出す。
「ナナちゃんいつもゴメンね」
「なにを言っているんですか。これは私がやりたい問気持ちを解消するためのものです。ヒアリさんには遠慮することはありませんよ」
「私が感謝したいから言ってるだけだよ」
「……そうですね。なら私も素直に受け入れておきます」
そんな話をしながら、二人は装備を整えて大穴へと向かった。
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そんなわけで俺達は大穴の第3層まで行く。ここは破蓋と接近戦をやりやすくするために広い足場が壁沿いに設置されている場所だ。
そして、そこには一台の自動車――軽トラックが置かれている。
『大丈夫そうかー?』
ナナエが耳につけている通信機からハイリの声が聞こえてきた。ナナエは荷台に、ヒアリは歩行補助装置の触手を器用に使って運転席に乗った。
この軽トラックは工作部が作り上げた兵器だ。荷台にはあの凄まじい威力の対空機関砲が設置されている。あのままではただの置物になったので、軽トラックに乗せてしまえば移動し放題ってことだ。
ただし、戦闘を行う場所は大穴であり、敵は下から浮上してくるから下に向かって射撃できなければならない。対空機関砲は空に向かって撃つものだからそのままではほぼ真下に向かって撃つことはできないのだ。というわけでトラックの荷台に結構高めの台座を設置して、その上に対空機関砲を乗せてある。あとは手元のハンドルをぐるぐる回せば、ぐぐっと台座ごと対空機関砲が斜め下に向くようになった。こんなものを数日に作れるとは工作部はマジですごい。ミミミは荷台に乗せたり、ここまで軽トラックを運んでくるのが一番面倒だったが、英女が馬鹿力で簡単に運んでくれたからそんなに大変じゃなかったと言ってたが。
それだけではない。すぐに近くに工作部が作った小型無人機が浮かんでいる。こいつのカメラで撮影した映像がヒアリの乗っている運転席のそばに据え付けられたモニターに転送されてくる。これでヒアリも運転しながら敵の様子が伺えるというわけだ。
ただ軽トラックの運転についてはいじる暇がないというか、難易度が高かったのでヒアリはアクセルブレキーを歩行補助装置の触手を使って起用に動かすことになる。両足が動かない状態だからこうするしかない。ミミミ的には今後は手だけでこの軽トラックを動かせるようにしたいとか。
それぞれは単純な作りだが、それらを全部合わせてこの軽トラック兵器――いわゆるテクニカルを作った。戦争映画とかリアル紛争とかでよく出てくる民間のピックアップトラックに兵器を乗せて砂漠を疾走しているアレである。
ナナエはハンドルを回して対空機関砲の座席を調整しながら、
「問題ありません。訓練で使ったときと同じ状態です」
「こっちも大丈夫だよー」
ヒアリは軽トラックのエンジンをかけて軽く動き回らせていた。
『ウィ!』
『あくまでも突貫で作ったものです。取り回しには注意してくださいと言ってます』
『あと、あたしらはここから見てるからなー』
「危なくなった場合は退避してくださいよ」
ナナエは工作部からの連絡に不安顔になる。ハイリたちは現在第2層で無人機の操縦を行っている。外からでは電波が不安定になるらしい。
「ナナちゃん……」
ヒアリがどこか不安――不満げな声を出す。ナナエはすぐに察して、
「わかってます。破蓋の戦いに英女ではないひとを直接関与させるのは非常に危険です。私も気が引けているんです」
ここで気を取り直して、
「ですが、今はそんなことを言っている場合ではありません。破蓋は迫り、人類の危機もあります。なによりも私はヒアリさんもハイリさんたちも守りたい。そのために最善の手を尽くすことにしました。今はこのやり方が一番破蓋を確実に破却する方法です」
「……そうだね。私、がんばるよ!」
二人で決意を露わにする。
ずっと英女は英女だけで破蓋と戦ってきた。適正値が自己犠牲心の高さに左右しているせいで、他の誰も巻き込みたくないという思いが強くなり、結局英女以外を巻き込まないように戦って――そして、死んでいった。
でも、もうそれはやめだ。そんな自己満足な自己犠牲心だけじゃヒアリたちは守れない。それにあのロボット破蓋にはそれだけじゃ勝つことはできない。
だから、ここにいる全員で破蓋を倒す。その決意の結晶がこのテクニカルだ。こいつであのロボット破蓋をぶちのめすのだ。
まあ俺は特になにもしてないんだけどな。楽で助かる。
「なにブツブツ言ってるんですか」
いつの間にか声にちょっと出ていたらしい、俺は口笛を吹きながら、
(いや別に? これで俺もちょっとは痛い思いをせずにすむかなって)
「ならさっさと私の身体から出ていってください。ただでおじさんを私の身体の中で飼っておくのは無駄です」
(できるのならとっくにやってるっつーの)
そんなことをだべっているとナナエの携帯端末に情報が入る。破蓋が第6層近くまでたどり着いたようだ。
ヒアリができるだけ足場の端に軽トラックを移動させ、ナナエは下に向かって傾かせた対空機関砲の二門の銃口を大穴の下に向けた。
「さあ、本番です!」
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