第115話 作戦会議3

「先生、新しい武器の申請をします」


 ナナエは先生の部屋に入るなり、資料を提出する。英女の戦力強化に必要なため、もっと強力な兵器を学校に取り寄せてほしいというものだ。

 さすがに工作部といえでも高度な兵器を作ることは難しい――ミミミはやりたがっていたが、時間がかかりすぎるということで今回は他所から持ってくるという話になっている。


 それを見ていた先生だったが、


「英女の武器は身軽で動きやすいものだけです。これは地面に設置して使うものなので、破蓋との戦闘に使えず、すぐに壊されることにより予算の無駄に――」

「私達英女やこの学校の生徒、そして、人類の命運がかかっている話です」

「しかし……」

「良・い・で・す・よ・ね」


 断ろうとする先生の言葉にナナエがずずいと迫まる。

 そのかつてない迫力に先生はいつもの笑みが消えてうろたえてから、


「……わかりました」


 そうしぶしぶと了承した。

 

 その後ナナエは失礼しますと先生の部屋を後にする。


(ずいぶん強気に攻めたな)

(ヒアリさんがあんなことになったんです。あのくらいはしてもらわなければ困ります)

(ははっ、そうだな。あの先生もそれが仕事なんだから確かに)

(おじさんも指導する立場の人に問題がある場合はきっちりと指摘して改めてもらっていたんでしょう?)

(いやー、そういうクソ現場はさっさと逃げてたわ。いちいち指摘するのも面倒だし。俺が解決するような問題でもないしな)

(……どうしてこんな人が存在してしまうのでしょう)


 ナナエは呆れながら廊下を歩く。


 ――――


 翌日。


「すっごーい!」


 ヒアリが黄色い歓声を上げていた。そこにはゴツゴツとした兵器が置かれている。座る椅子とその前に二門の巨大な銃口。対空機関砲ってやつらしい。昨日の夜に学校の全生徒に寮での待機指示が出され、その間に外部からもちこまれ、大穴近くの廃墟ゾーンに置かれている。


 で、ちょうどナナエが試し撃ちをしているわけだが、


「すごい! これはすごい威力ですよ!」


 そのすさまじい威力に興奮しまくってた。なんでもナナエが使っている大口径対物狙撃銃の2倍の大きさの弾が撃ててさらに連射速度も早いので、近くの廃墟のビルがあっという間にボロボロに変えられていた。てか、


(うるせーよ! てか音がでかすぎて痛い!)


 ズドドドドドドという心臓が止まりそうな発射音に俺が死にそうだ。倉庫でパレットをバーンと床に豪快におろしたときの音よりきつい。


「この程度の反動や音など破蓋の攻撃に比べれば何でもありませんよ! むしろこの音と威力最高ですね!」


 もう楽しそうなナナエに俺はドン引きだ。相変わらず銃をぶっ放すのが大好きなやつだな。


 そんなふうにしていたら突然ナナエの携帯電話が鳴り響く。先生からだ。


『ミチカワさん。言い忘れていましたが、その兵器に使われる弾丸は非常に高価です。くれぐれも無駄にしないようにお願いしますね』


 その後に具体的な金額を先生は言ってたが、ナナエはピンとこないのか首をかしげる。一方で俺は真っ青になってた。この世界のテレビやらなんやらで大体金銭感覚はつかめていたが、今言われた金額を聞いた限りでは、


(今の試し撃ちで俺の給料の三ヶ月分が飛んだぞ!?)

「破蓋を確実に倒すためです。その程度の負担は覚悟して当然です」


 あっけらかんというナナエ。いやまあ人類を守る仕事なんだからそのぐらいっちゃそのぐらいなんだが、実際の金を言われると俺の貧乏性がうずいて辛い。


 先生をこれ以上困らせても仕方がないので試し撃ちはここまでにして、近くで耳をふさいで見ていた工作部とヒアリの元にいく。


「これがあれば完璧ですよ。破蓋なんてイチコロです」


 ナナエがめっちゃ興奮していたので、ハイリがまーまーと落ち着かせて、


「落ち着けよー? このままだと破蓋の攻撃を食らって一発で使えなくなるって話じゃん。しかも、対空兵器だから下に向かって撃てないし」

「あ」

(あ)


 最後の一言でナナエと俺は気がつく。動けないのはわかってたが、それよりも対空兵器なんだから下に向かって撃つために作られてはいない。大穴では底に向かって攻撃するのだから、砲塔の角度を下に向けるしかない。これではただの置物だ。


「どどどどどどどどうしましょう?」

 

 ナナエが慌てふためく。マルがため息をついて、


「やっぱり執行部の人たちが言っているように先生は抜けているところがありますね……」


 確かにナナエはこれぐらいの威力と連射速度といった資料を出してあとは先生と国の方で話し合ってくれと言っておいたが、それで使えないものを選んで送りつけてきたわけだしミスだろう。いや、俺らももっときっちとした指定をすればよかったから俺らのミスもある。


「ウーイー」


 ここでミミミがジロジロと対空機関砲を見てから頷いた。そして、マルが言う。


「これで十分、だそうです」

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