第113話 作戦会議1

「へー、ナナエの中におっさんがいるのか。しかも、ここじゃない世界から来たとも言ってる。こりゃまた驚きだね」


 後日、ヒアリと工作部を集めて今後について作戦を練っているときに、工作部にも俺の存在について話す。ちなみにクロエは忙しいといってきてない。


 この話を聞いた途端にミミミが突然カッターをチキチキと刃を出しはじめて、


「ウィ……」

「調べたいけどいい?と言ってます」

「駄目に決まっているでしょう!」


 ナナエは仰天してお断りした。ミミミの好奇心に溢れかえった顔をみると、今すぐ人体解剖でも始めそうで怖すぎる。


「まあいろいろ異世界の話も聞いてみたいけどさー、とりあえず今日はこっちを優先しようか」


 そう言ってハイリは壁に貼った『打倒!破蓋!』の張り紙を指差す。ナナエの中に俺がいるなんて突拍子もない話を案外あっさり受け入れる連中だな。


 今日の作戦会議はまず第一にロボット破蓋、そして、ヒアリの足を治して、最後に破蓋そのものをどうやって倒すかという話だ。いろいろすっ飛ばし過ぎの気もするが、せっかくだし夢はでっかく語り合おうというハイリの言葉で始まった作戦会議である。


「とりあえず情報をまとめましょう」


 ナナエがマジックペンをキュポンと取り出し、ヒアリがホワイトボードを持つ。そこに現状のロボット破蓋の情報をスラスラと書いていく。


・破蓋を唯一撃破するための核が存在しないのでいくら破壊しても復活する

・武装は大口径の銃器と剣、無反動砲らしきものでかなり強力

・後部の推進部を破壊すると飛べなくなるので大穴の底へと落ちていく

・複数で大穴の底から浮上してきて最近は数が増えている

・この破蓋はおじさんの世界にある創作物が元になっている可能性がある


 ここまで書いた辺りでハイリが手を挙げて、


「そのおじさんの世界の創作物ってどういうことだー?」

「通常の破蓋ははさみや急須などが怪物化したものですが、今回は私達の世界に該当するものは存在していません。おじさんの話ではこの破蓋を放送で見たことがあると言ってます。武装などについての情報は正しかったので間違いないでしょう」

「うーーーーぃ」


 ナナエの説明に、ミミミが目を細めて妙だという顔をしている。マルも同意して、


「私達工作部でも過去の破蓋について調べていますが、創作物が元になった破蓋の前例はありません。なにかおかしい気がします」

「私もそう思うんですが……」


 俺に疑いの視線を向けられまくったので、


(俺だって信じられねーよ。でも確かにテレビ――放送で見たんだよ。アニメでどんぱちロボットが宇宙で戦うやつ)

「よくわからない言葉も混じってますが……とりあえず間違いないとおじさんは言ってます。あにめと呼ばれる放送番組で見たそうですが……」


 ここでヒアリが笑顔になって、


「おー、知ってるよ、アニメ。楽しいよね、アニメ」


 かわいらしく答えた。

 ん? ナナエはアニメのことを知らなかったみたいだが、ヒアリは知ってんのか? どういうことだ。


「ヒアリさんはあにめというものを知っているんですか?」

「知ってる、知ってるよ。漫動画のことだよね。昔はアニメって呼ばれてて、私のお父さんも今でもアニメって呼んでるんだよ」

「あたしもアニメって言ってるぞ。ここの学校に来てからはあんまり放送を見てないからあんまり言ってなかったけど、言ったらまずいんだっけ?」

「ウィ!」

「ミミミさんも知っているそうです。あ、私も聞いたことはありますね。敵性語だから30年ぐらい前に禁止された単語だったはずです」


 なんとヒアリどころか工作部全員もアニメと言う言葉を知っていた。というか知らなかったのはナナエだけである。てか、敵性語ってなんだ、物騒だなオイ。


(なんだよ。みんな言葉が通じるじゃねーか)

(しっしかたないでしょう。私の家では厳格に神々様の信仰を守るようにしていたので神国の法律にもちゃんと対応していただけです)


 どうやらナナエの家が石頭一家だったせいで俺との言葉の壁に苦しんでいたらしい。やれやれ。そういやハイリが前にタクシーとか言ってたな。あれも昔使ってた言葉が残っているということだろう。


「私達の国、もう何十年も鎖国しているからねー」


 ヒアリがあっけらかんとすごいことをいい出した。


(なんだよ、お前の国は鎖国してたのか?)

(知らなかったんですか? 授業や放送を聞いていればなんとなく察しが付くと思ってましたが……)


 ナナエにそう言われて思い出してみると、はっきりとしたことを言ってなかったが、外国との関係を断っているとかそんな話をしてたような気がする。

 まあ今はそんなことはどうでもいい。


 マルはまだ思案顔のまま、


「しかし、アニメから飛び出てきた破蓋というのもやはり違和感がありますね。そもそも核を持っていないことから考えて、その破蓋は本当に破蓋なのでしょうか」

「破蓋さんだと思うよ。私に力を貸してくれている神々様がそうだって教えてくれてる」


 ヒアリがそうあっけらかんと言ったので、ナナエは少し驚いて、


「神々様と話ができるんですか?」

「うーん……話というかなんとなく言っていることがわかるというか……ごめんね、うまく表現できないかも」


 そうやや申し訳なさそうになるヒアリ。うーんかわいい。

 ハイリはふむと、


「それなら破蓋なんだろうけどさー、いろいろ例外的な事が多すぎるんだよな。でもなんかもうちょっと考えてみたら全部辻褄が合う気がする」

「ウィッ」

「ミミミさんも恐らく見逃していることがあるはず。それが見つかればすべての糸がつながるかもしれないと言ってますね」

「というわけでどうなんですか、おじさん」


 工作部とナナエに詰め寄られてしまう俺。

 と、いわれてもな……。

 俺は記憶の糸をほじくり返す。そもそもそのアニメはまともに見てなくてラスト数回を見ただけだったはずだ。そこであのロボット破蓋が戦っていたのを見たぐらいで……

 ん? ちょっと待てよ? そんな数回見ただけなのになんであんなレールガンとかヒートサーベルとかのことまで俺は知ってたんだ? 放送中にそんなのやってたっけ……いや、そこで見たわけじゃなかったはずだ。なら、ロボット破蓋の細かい設定をどこで見たんだったか……


 当時の状況を思い出してみる。倉庫の仕事が繁盛期で遅くなり、夜中の1時ごろに部屋でコンビニ飯を食いながらテレビを見ていたことが多かった。その時、一番記憶に残っているのはソシャゲのCMだな。洗脳されそうなほどガンガン流されてつれぇわとか言ってた。

 ああ、そうそう。確かそのCM時間の中であのロボット破蓋の――


(あー!)

「なんですか突然! 話ならちゃんと聞きますから耳元で大声を出すのはやめてください!」


 ナナエが抗議するが、俺はお構いなしに自分の勘違いについて話す。


(あの破蓋はおもちゃだった)

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