第112話 当然バレた
「なにかすごく恥ずかしいことを言ってしまった気がします……」
(俺も)
ロボット破蓋が戻ってこなくなったので学校に戻る途中、ナナエは顔どころか耳まで真っ赤になって顔を抑えながら歩いていた。
やけくそ気味にヒアリに死んでほしくないと俺達二人で言ってみたものの思い返すと恥ずかしさ満点だ。思い出したら顔がねじ曲がりそうになる。
一方のヒアリは車椅子に乗りながらなにやら嬉しそうにナナエにくっついてきていて、
「ふふ~♪ ナナちゃんの本音を言ってもらって嬉しかったよ~♪」
「くっつかないでくださいっ」
そうナナエがぐいっと押し返している。
ふとここでヒアリが車椅子を止めると、
「あ、そーだ、ナナちゃん。一つ良いかな? ナナちゃんのお願いを聞く代わりだし、聞いちゃってもいいよね」
「……いいですけど」
ナナエは大体予想できるという顔をしていた。
そして、ヒアリが口を開き、
「ナナちゃんの中に誰か違う人がいるよね?」
と、聞いてきた。
……まあそうだよな。こないだから俺が身体の主導権を握ってあれだけ騒いでいればわからないほうがおかしい。
それを聞いたナナエは大きくため息をついたあとで、
「すみません。隠すといいますか、どうすればいいのか、一体どうしてこうなっているのか私もわからず困っている状態なので伝えにくかったんです」
「えー、言ってくれれば力になったのにー」
ヒアリが残念そうな顔になる。ナナエも困り顔で、
「最初に私の中に別の人が住み着いたときに、先生に相談したんですが精神を安定させる睡眠薬を出されたり、他の人に聞いても変な顔をされるだけだったので……それになんといいますか、私の中にこんな駄目なおじさんが住み着いているのを他人に話すのが辛いということも……」
そうモゴモゴと話す。まあ年頃の少女だし、中に底辺労働者のおっさんがいますーとか女友達には話しづらいだろう。
ヒアリはいつもの笑顔で、
「おじさんなんだー? 私もおじさんと話してみたいなー」
どうやら俺と直接話がしてみたいらしい。ナナエも了承して、
「ヒアリさんがそう言っているので代わってください」
(嫌だ)
「は?」
俺は断固拒否の構えだ。
(そんな他人の真正面から自己紹介とか挨拶とか死にそうになりたくなるから嫌なんだよ。そういう付き合いは、もーしたくない。他人と接触するのはコンビニ――小売店で弁当とか買うときだけでいいんだよ。底辺労働なら誰とも喋れずにできる仕事とかあるしな。面倒なことはやりたくない。一人っきりサイコー)
「一体なぜこのような人間が存在するのでしょう……」
ナナエは頭を抱えてしまう。俺の声が届かないヒアリは不思議そうな顔をしていたので、
「おじさん――私の中にいる男の人が直接話すのは、面倒だから嫌だとか言ってて」
「えー、そんなー」
「そもそもこのおじさんと呼んでいる人は未だに私に氏名すら教えてくれませんからね。まともな人間ではありませんよ。ヒアリさんもこのような危険物に触れてはいけません」
(誰が危険物だコラ)
俺が口をとがらせていると、ヒアリは残念そうな笑顔で、
「残念~。でも気が向いたときにお話したいな」
そう諦めてくれた。やれやれ、自己紹介とかしたくないから助かった。
ナナエはため息をついて、
「なんでそんなに他人と話すのが嫌なんですか」
(だって面倒くさいし。付き合いとかもしたくないし。仕事で金を稼いで家に買ってゴロゴロしながら、休日は一人で自転車でブラブラして過ごすのが楽しかったからな。友達なんていらん)
「そこを面倒と考える人間がいるというだけで未確認生物を見つけた気分ですよ、まったく」
ここでヒアリが首を突っ込んできて、
「んふふ~、でもナナちゃんがおじさんと話していると楽しそう」
「そうですか?」
そうどこか含みのあることをいい、ナナエが首を傾げる。なんだ、俺はこんなうるせー宗教馬鹿は嫌だぞ。
これにナナエはしばらくしてからキラーンと勝ち誇った笑みを浮かべ、
「まあ当然でしょう。おじさんを批判すれば批判するほど私の適正値が上がるんです。おじさんの破綻した人間っぷりをみて我が身を治すことで私自身の人格が完成されていくわけですからね。これが楽しくなくてなにが楽しいというんですか」
「え? あ、うん、そうなんだ」
予想外の返答だったのか、とりあえず適当に合わせている感じのヒアリ。
それからヒアリは車椅子を走らせ始めて、
「ナナちゃんとおじさんに生きて欲しいと言われたのは嬉しかったけど、多分私は買われてないと思う。きっとこれからも自分の命をかけて誰かを守ることをやめられないかな」
「…………」
ヒアリはこっちを見ない。ナナエは黙って聞いている。
「だから、強くなることにしたよ。たとえ命をかけても敵を圧倒的な力で粉砕しちゃうの。そうすれば、ナナちゃんも守れて、私も死なずにずっと一緒にいられる」
そう振り返りにっこりと笑顔を見せた。
「……全くなんですかそれは」
ナナエは呆れながらも笑顔だった。
圧倒的な力。誰かを守って相手も粉砕し結果的に自分も生き残る。神々様に愛されまくるヒアリなら可能だろう。いきなり思いついたとは思えないし、実は前々からそうなるつもりだったのかもしれない。
まだ不安なこともあるが、とりあえずこの問題は一旦ここで様子見でいいだろう。
さて、次の問題だ。あのロボット破蓋の正体と倒し方について。
やること多くて嫌になるねホント。
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