第101話 やること多すぎ
翌日の朝、ナナエ(と俺)はヒアリを車椅子に乗せて、他の生徒達に混じりつつ、学校へと向かった。
英女候補の生徒たちは心配げにヒアリに語りかけてくるが、当のヒアリは笑顔で、
「みんな、おはよーくるりんぱ♪ 私は大丈夫だよー」
そういって笑顔を振りまいていた。
そんなヒアリにナナエは、
「ヒアリさん、あんまり動いてはいけません。車椅子とはいえ、転倒することもあるんですから」
「大丈夫大丈夫ー」
「まったく気をつけてくださいよ」
「はーい」
とか会話している。
そんな中、俺は考え事をしていた。これからやることについてだ。
まとめると抱えている問題はこうなる。
・ヒアリに戦うことをやめさせる方法(最優先)
・ナナエの身体からでていく方法
・核を持たず倒してもまたやってくるロボット破蓋の正体
・破蓋そのものの目的
・前回ヒアリがやられたときに聞こえてきた「従え」とか「抗え」とかの声(いろいろあったせいで完全に忘れていてまだナナエには話してない)
あと、ハイリがタクシーとか言っていたのもあったな。まあこれは後回しでもいいだろう。
あまりに問題が山積みで俺は頭を抱えてしまう。
(はぁ~、逃げたい)
(なんですか朝からそのようなやる気のないため息をつくなんて。私のやる気まで減衰するからやめてください)
(だってやること多いしー。面倒くさいしー。もー考えたくない。決まったことだけやって稼いで家に帰ってごろごろする底辺生活を返してくれぇ)
(駄々っ子状態になってますね……)
ヒソヒソ会話しつつナナエは呆れている。
実際問題としてやることが多すぎる。大体こういうことが処理できないから底辺に落ちて貧困と引き換えに頭を使わない仕事をやっていたような俺に酷すぎる状況だ。いつもならダッシュで逃げて別の仕事に行くが、ナナエの中に監禁されている状態ではそれもできやしない。何の嫌がらせだ。ここは刑務所か?
そんなことをブツブツ考えているうちに学校にたどり着く。
昇降口に入ってナナエがまず上履きに履き替えた後にヒアリを車椅子に座らせたまま履かせる。
その後、車椅子を階段前までつけると、ナナエはヒアリを背負った。ヒアリの教室は二階だが、車椅子では階段を登れない。家と言ってこの学校にはエレベーターはない。なので背負って教室まで行くしかないのだ。
(本当はちゃんとした資格がないとこういうことはしてはいけないんですが……)
(しゃーねーだろ。この学校は英女候補の女子しか入れないんだし)
ナナエは法律違反をしていることに少し思うことがあるようだが、ヒアリのほうが大切なのでこうやっておぶって階段を登っていく。
「……ごめんねナナちゃん。わたしのせいで」
「気にしないでください。あのとき気絶したのは私のせいですし、傷ついた仲間を助けるのは英女として当然のことです」
二人がそんな話をして階段の折返しの踊り場にたどり着いたときだった。
「おっすおっす」
「ウィ!」
「おはよーといってます」
いきなり踊り場の窓から工作部の連中が顔を出してきた。ここは1階と2階の間だぞと思ったら、脚立に乗って何かをしていたようだ。
予想外の登場にナナエは面食らってしまい、
「……何をやっているんですかそんなところで」
「いやさ、ヒアリをここに毎朝連れて登っているのを見て大変そうだなーと思ったから、あたしら工作部でここに昇降機をつけてやろうかと思ってね」
「ウィウィ」
「簡易的なものだが数日で作れると言ってます」
三人やる気満々だったのでナナエはため息をついてから、
「学校の許可は取りましたか? 生徒会に申請もしておかないと」
「そんなもん別に――」
「コラー!」
突然廊下に響く怒声。こないだも聞いたと思ったら、例の黒髪風紀委員が二階から降りてきていた。
「やっべ逃げろ!」
「ウィッ」
「逃げるが勝ちだそうです」
工作部の連中は脚立から飛び降りて逃げていってしまった。
黒髪風紀委員は呆れ顔で、
「全く、あの子なにか言ってなかった?」
「ここに昇降機をつけるって張り切ってました。ヒアリさんを運ぶためのようです」
「あー、そういうこと。なら次にあったらすでに学校の一部に取り付ける予定で数日後に業者が来るから手出し無用って言っておいて」
「はあ……わかりました」
それだけ言い残して黒髪風紀委員は去っていく。
(学校に業者? ここは英女候補生以外は立ち入り厳禁じゃなかったっけ)
(学校内や大穴の修繕で専門業者が必要な場合は全生徒を寮に待機させた上で外部の人が入ってくるときもあります。本当に極稀ですが)
ナナエの説明に俺は納得する。まあできることなら専門業者に頼んだほうがいいからな。
「なんか悪いな……私のせいなのにみんなに負担をかけちゃってる」
ヒアリがポツリとこぼす。助ける側になりたいヒアリが周りから助けられているのに違和感を覚えているのだろう。
ナナエは笑みを浮かべて、
「大丈夫ですよ。みんあヒアリさんを助けたいだけでやってますし。それが引け目になるというのならこれからも破蓋を破却することで借りを返してください」
「……うん!」
ヒアリの顔にも笑顔が戻る。ただナナエの言葉には微妙な引きつりがあった。なんせヒアリを英女から降ろそうとしているんだから今の言葉は嘘っぱちである。その嘘に心が傷んでいるんだろう。
その後、ヒアリを教室に届けたあと、ナナエは自分の教室には戻らず、先生の部屋へと向かった。
抜かれていた資料を見せてもらうためにである。
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