第100話 何かが抜かれてる
どうやらミミミいわく、この書類の上で誰かが何かを書いていたらしい。その筆圧が強かったらしく、薄っすらと文字が残っているとのこと。
(見えますか?)
(いやさっぱり。でもなにか確かに跡っぽいものは見るが、よくこんなのに気がつくな)
(ミミミさんは工作部の方々が言う通りただならぬ人のようですね)
俺とナナエが感心していると、
「どーだうちのミミミはすごいだろー!」
なぜかハイリが自慢げに語りだした。こいつの工作部での立場がよくわからないがムードメーカーとかマスコットポジか? まあそんなことはどうでもいい。
マルが書類をナナエに差し出し、
「この書類、使えなくしても大丈夫ですか?」
「はい、必要な情報はすべて記憶していますので」
そうナナエはGOサインを出す。
ここでミミミは腰につけていたミニバッグ――ベルトポーチから鉛筆を取り出した。それを使って書類を塗りつぶしていく。
そういやミステリーでこんなのがあったな。メモ帳の上にメモを書いて破って持っていった後に2枚目を鉛筆でシャカシャカと塗って凹んだ文字をあぶり出すやつ。
そうやって10分ぐらい経ったあと、
「ウィ」
「できました」
ミミミから文字の跡をあぶり出した書類を受け取ったマルが読み始める。
「えーと、『今日の夜ご飯。白菜と焼き魚、味噌汁、ご飯が足りないから発注』」
(ただの飯の予定じゃねーか!)
(いきなり大声を挙げないでください!)
思わず反射的にツッコミをしてしまった俺にピシャリとナナエが突っ込んでくる。だが少し肩を落として、
(しかし、大した情報はなさそうですね)
(まあ世の中そんなにうまくいかないわな)
そんなことを言っている俺らとは対象的にミミミはまだ書類を並べていた。どうやら今度は複数枚ある書類をページごとに並べているらしい。
その後、1ページ目から順にパラパラとめくり始める。
「ウーィ……ウィ? ウィ!」
なにかに気がついたらしく、鼻息を荒くし始めるミミミ。マルがミミミから少し話(ウィしかいってないが)を聞いた後、
「この筆跡はかなり強い筆圧で書かれたためにできたものです。当然二枚目にも跡が残るはずなんですが見当たりません。つまり、2ページ目にはここにない別の書類があった可能性があります」
マルから伝えられた言葉にナナエも書類を見て、
「すごいですね……これは全く私には思いつかなかった観察方法です」
そう驚愕してしまっていた。俺も驚いている。ミミミの能力に。
ここでハイリが立ち上がり、
「ふっふっふ、これが我が工作部の頭脳のミミミの力だ! どーだすごいだろー!」
「ハイリさんは何もしていませんけどね」
意気揚々に笑うハイリに冷ややかな視線を送るマル、とミミミ。呆れ混じりのその顔からハイリの扱いがどういうものなのかだいたい冊子がついてしまった。
ナナエはわざとらしく咳き込んで場を一旦静めると、
「とにかく私に渡されていない情報があるのは認められません。明日先生のところに行ってその抜かれている資料をもらってきます」
「わざわざ抜いたものを渡してくれるでしょうか……もしかしたら国家機密に当たるからといって削除されたりしていた場合は……」
少し気が立っているナナエに、マルが不安を訴えている。
だがハイリはすぐに手を叩き、
「そんなもんは先生のところに行った後に考えりゃいいんだよ。何もしなければ何も起きない。起こしてから初めて道を進むことができるのだ」
「……ウィ」
「何いってんだこいつ、だそうです」
ミミミの言葉をさっさと通訳するマル。だがハイリは全く気にせず、
「あたしらもついていくぞ? ここまでやったんだから首を突っ込む権利ぐらいは得られたと思うからな」
「……仕方ありません。でも直接話すのは私だけです。工作部の人達は先生の部屋の外で待っていてください」
ハイリはつまらなそうな顔だったが、しぶしぶと了承した。
そして、翌日俺達は英女学校の先生のいる部屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます