第99話 本当か?

 ナナエは話がなんか脱線したのでもとに戻す。


「まあそういうことなのでこのままヒアリさんが戦い続ければ確実に命を落とします。いえ、英女になるということは命をかけて戦うことになるのはわかっていますが、これではまるで死にに来たようで……」


 どうにもうまく説明できないのかもじもじしてしまっている。

 確かにナナエはずっと破蓋と戦ってきたし、何回も仲間と死に別れている。このままだとヒアリが死んでしまうから家に帰したいというのは変な話だ。

 ただ――俺はミナミの最期の姿が頭によぎる。ボロボロになっていても、それでもナナエと合流しようとして息絶えていた。最期まで生きようとしていたのは間違いない。

 生きるために戦っていたミナミに対して、ヒアリの目標は誰かのために死ぬことだ。この差があるから、俺は違うと確信している。


 ここでハイリが腕を組んだまま天井を見て、


「そもそもさー、ヒアリは本当にそんなふうに思ってるのかよ? 話を聞いただけだとナナエが一方的にそう勘違いしている可能性もあるんじゃないのかー?」

「それは……」


 ハイリに指摘にナナエは言葉を返せなくなる。ヒアリの言葉を聞いたのはナナエじゃなくて俺だし、本当にそうなのかと言われれば断言しにくい。


(本当にヒアリさんは前に聞いたとおりのことを言っていたんですよね?)

(まちがいねーよ。自分の能力が低いのは認めるが、あの言葉だけは絶対に聞き違えてねえ)

(余計に不安になりそうな言葉をつけないでください……)


 ナナエはやれやれとため息をつく。

 ヒアリは誰かを守るために死ぬような行動をとってしまうという話をしていた。それに間違いはない。

 ――ん? ここでふと気がつく。そういえば、あのとき親にも遠回しにそれは駄目だとか言われいたとも言っていたな。となると、ヒアリの問題点ってのはすでに周りからも認識されていたはずだ。当然、英女学校側も知っていてもおかしくない。

 

 俺はそのことをナナエに話す。


(その話は前のときも聞いていましたが、確かに学校――先生もそのことを知っていておかしくありませんね……知っていて黙っていたということでしょうか)

「どーかしたのかー?」


 俺とナナエがヒソヒソ会話をしているとハイリが話しかけてきたので、ナナエが口でその件について説明する。それを聞いたハイリはなるほどと、


「事前にヒアリのことについて書かれていた資料とか渡されてなかったのか? それこで伏せられていたのなら、黙っていた可能性は高いっぽいけど」

「ちょっと待ってください」


 ナナエは机の棚から書類を取り出す。ヒアリが来る前に渡されていたプロフィールのものだ。

 それを工作部三人の前に出して、


「ヒアリさんについての資料です。事前に渡されていましたが、命をかけてしまうという問題性については書かれていませんでした」

「載ってなさそうだな。ってことは隠していたってことか? 感じ悪いなー。あっっ、でも本当に気がついてないだけかもしれないか」

「それはそれで問題がありますよ。英女候補になる人の個人情報はかなり入念に調べられるはずなんですから。変な人が入っていては大変ですからね」


 ハイリの言葉にマルが苦言を呈する。 

 わかっていたのなら教えてくれればこっちとしてももっと対策ができたはずだ。少なくても両足の機能を失うなんて事態は避けられたと思いたい。なんだか俺もムカついてきたぞ。


「……ウィ……ウィ」


 ここでミミミが眼の前に置かれた書類に顔を近づけている。ここにハイリが割り込んできて、


「なんだなんだ、変な匂いでもするのか? クンカクンカ」

「ウィ!」

「あいたっ!」


 ミミミに額を叩かれて追い払われてしまった。その後にマルがミミミに近づいてきて、


「どうかしたんですか?」

「……ウィ?」


 書類を慎重につまんでひらひらとさせる。

 その後また床に置いてから、


「ウィー」

「なにか書いてある? というよりこの紙の上でなにかを書いていた跡があるそうです」


 マルがそう通訳してきた。

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