第97話 ロボット破蓋7

「ああ……今日は最悪だな……」


 俺は呆然とつぶやいた。今までぺしゃんこにされるまで殴られたことはあったが、こう何度も何度も爆発に巻き込まれてひどい目にあうのは始めてだ。

 身体の主導権を得た俺はすぐに隣りにいたヒアリを抱きしめてかばっていた。また近くにロボット破蓋のロケット弾が炸裂し、俺の全身に爆風が降りかかってきて全身がズタボロにされる。

 今回の攻撃で大体ロボット破蓋の攻撃がわかった。あのロケット弾には恐らく細かい金属化なにか破片が詰まっていて、爆発すると一気にその破片が飛び散るのだろう。テレビとかでそうやって爆弾の殺傷力を上げるという話を聞いたことがあった。

 厄介な武器だ。破片の一つでも身体に当たれば相当な傷を負う。ヒアリを近づけさせる訳にはいかない――


「う、うう……」

「へ?」


 突然ヒアリがぐずりだしてしまった。


「私……嫌だよ。ナナちゃんを守れてない。こんなの嫌だよ……私に守らせてよ……」


 ヒアリがポロポロと涙を流し始めてしまった。どうやら俺がかばいまくったせいでヒアリが動揺してしまったようだ。おおう、女の子が目の前で泣くなんて中学校とか以来だ。どうすりゃいいんだ。

 俺がオロオロしていると、ナナエがわざとらしくため息をついて、


(痛みの方はもう引きましたか)

(え、あ、ああ、多分大丈夫だ)

(なら返してください)


 そういってナナエは身体の主導権を取り戻すと、ヒアリに笑顔を向け、


「ヒアリさん。私は先輩です。ずっと破蓋に立ち向かい、破却してきました。そのために日々鍛錬を惜しまず自分の実力を磨き上げてきたつもりです。ヒアリさんのとてつもない力は認めます。私などより簡単に破蓋を破却できるでしょう。ですが――いえ、だからこそ――」


 ここで大口径対物狙撃銃を握りしめると、


「たまには私に先輩らしいことをさせてくれませんか?」


 ナナエの力強い言葉。これにヒアリは面食らってしまったのか、


「は、はい……」


 そう返すことしか出来なかった。

 

 ナナエは対物狙撃銃を構えて、真下でロケット弾を構えながら浮かんでいるロボット破蓋を照準に捉える。

 どうやらロボット破蓋は近づいてこずにそこから狙い撃つつもりらしい。ほどなくして、再びロケット弾を発射してくる。


 アニメや映画でしか見たことがなかったのでロケット弾といえば銃弾よりも遅くてフワフラと飛んでくるイメージが合ったが、こいつのは銃弾よりも早く一瞬で俺たちのところに飛んできた。


 しかし。


「……いけますね」


 ナナエは大口径対物狙撃銃の弾倉を入れ替える。

 何が起こったのかわからなかったが、突然離れたところでこちらに放たれたロケット弾が爆発したのだ。

 俺が混乱している間にロボット破蓋は再びロケット弾を発射してきた。


「……ふっ!」


 ナナエの口から空気が漏れるのと同時に大口径対物狙撃銃の銃弾も発射される。そして、すぐにまたロケット弾が大爆発を起こした。


 ここでようやくナナエのやっていることがわかった。こちらに向かって発射されたロケット弾にナナエの銃弾を命中させているのだ。銃弾より大きいとは言え、速度は銃弾よりも早い。そんなものに銃弾を当てられるとはこいつも普通にとんでもねえ。


(やっぱりすげえよ、お前は)

(珍しく褒めるんですね。ですが、これは結構神経をすり減らしますよ……!)


 ナナエが再度ロケット弾を迎撃する。当てるのが難しい上に一発でも外れればヒアリに当たりかねない。


 何度か迎撃を続け、あと残り一発で弾倉交換になったときだった。


「大体わかりました」


 唐突にナナエがそういったのと同時に発砲する。まだロボット破蓋はロケット弾を撃ってない――と思いきや発砲のワンテンポ遅れて発射していた。

 そして、ナナエが放った銃弾は撃ったばかりでまだロボット破蓋の眼の前にあったロケット弾に直撃する。


 次の瞬間、ロケット弾が大爆発をお越し飛び散った破片と爆風がロボット破蓋の全身を切り裂いた。さらにその傷は背中のスラスターにも及び、誘爆を引き起こして木っ端微塵になる。


 ははっ。ヒアリもすげえがナナエもすげえよマジで。

 

 それから暫くの間大穴のそ子に落ちていったロボット破蓋の様子をうかがっていたが、戻ってくる気配がなくなる。


 ナナエはふうとため息をついて、


「破蓋は今の所戻ってくる感じはしません。一旦寮に戻りましょう」

「うん……」


 ヒアリの返事はすっきりしない感じだった。

 誰かを守るために命をかける少女。そんな少女がちっとも守ることが出来ずに周りばかり傷ついていくのは見ていて辛いってのはわかる。


 ただ、俺とナナエはヒアリに死んでほしくないだけだ。なにかヒアリを守るための手段を講じなければならない。

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