第96話 ロボット破蓋6

「――――ぐ」


 俺は苦悶の声を上げた。

 恐らく脊髄反射みたいなものだっただろう。すぐさま隣りにいたヒアリを抱きしめたあと覆いかぶさるように地面に伏せた――次の瞬間、激しい爆音・爆風とともに俺の全身に数えきれない痛みが走る。


 何が起きたのかヒアリに覆いかぶさっていたのでわからないが、ロボット破蓋の片方が放った攻撃が近くに着弾したらしい。

 というか痛い。本気で痛い。こんなの我慢しろって方が無理なほど痛い。


(破蓋が来ます! 上に後退してください!)

(無理無理! 全身の神経がズタズタで指一本動かせねえ!)


 ナナエが脳内で叫ぶが、俺が身体に力を入れようとしても指一本すら動かねえ。視界もぼんやりして何が何だか分からない。身体の状態は相当ひどいようだ。


「ナ、ナナちゃん……大丈夫……?」


 今度はヒアリの声がしてきた。ちょうど少しずつ身体の修復が始まったのか、視界がはっきりし始める。

 眼の前にはヒアリが呆然としたままこっちを見つめている。というか顔が近い。息が顔に当たるぐらいだ。

 ここでヒアリがはっとした表情を浮かべる。同時にゴーというスラスターの噴射音が聞こえてきた。なんとか少しだけ顔をそちらに向けると、ロボット破蓋の1機がヒートサーベルを俺たちに振り下ろそうとしている。げっ、あれがあたったら俺ごとヒアリもまっぷたつだぞ!?


「させないよ!」


 ヒアリはすごい不安定な体勢にもかかわらず手元にあった鉈を掴んで振り下ろされたヒートサーベルを受け止めた。強烈な熱を放つそれを鉈で受け止められるのかと一瞬身構えたが、ヒアリの持つ神々様の力のおかげかなんとか真っ二つにはならずに済んでいる。


「ナナちゃん離れて! 私が受け止めてるから!」


 ヒアリがそう叫ぶ。しかし、身体はまだ少ししか動かない。万一不安定な大勢で避けてヒアリの邪魔をしたら、ヒートサーベルが振り下ろされかねないだろう。


「私は大丈夫だから! ちゃんとナナちゃんを守るから!」


 ナナエを守る。だがヒアリは自分を守ろうとはしていない。ナナエが守られるのならば自分が死んでしまっても構わないのだろう。


 ――冗談じゃねえぞ。


「うる…せえ…少し…そのままで……いろ…」

「えっ……」


 俺がなんとか声を振り絞ると、ヒアリが困惑の表情を浮かべた。心優しいヒアリに対して乱暴な言い方をしてしまったので罪悪感を感じるが、そんなことを気にしている余裕はない。

 ヒアリはなんとかヒートサーベルを押し返している。俺は足や手の指を動かして身体の神経が回復しているのを確認した。もう身体は動くだろう。しかし、痛みはまだ残っている。


(おじさんまだですかっ!?)


 ナナエが焦りの声を上げている。俺はそばにナナエの大口径対物狙撃銃が落ちているのを確認して、


(まだ結構痛むが耐えろよ?)

(わかってます!)

(ただそのまま避けるなよ。ヒアリのやつがそれに満足して力を緩めたりしかねない。この位置でロボット野郎を倒すしかない。結構難易度高いが、できるか?)

(……やってみせます!)

 

 力強く、そして躊躇なく答えるナナエ。こんな体勢でヒアリを守りながらロボット破蓋を倒す。出来たら奇跡みたいなものだ。はっきりいうが、俺が奇跡を願ったときに叶った試しはない。俺みたいな実力のない人間がただ願ったところで叶うものでもないからな。

 しかし、ナナエは違う。


(返すぞ)

「――はいっ!」


 身体の主導権を取り戻したナナエは間髪入れずに大口径対物狙撃銃を握りしめて、そのままヒアリをベッドにするかのように仰向けでかばった。


「ナナちゃん!? 私が守るからここから――」

「私がヒアリさんを守ります!」


 ヒアリの言葉を遮ってナナエは銃口をロボット破蓋に向けた。そして、問答無用に頭をぶち抜く。

 それでロボット破蓋のバランスが崩れたのと同時にヒアリが鉈でヒートサーベルを振り払った。さらにナナエが両手と両足に発砲して吹き飛ばす。

 ここでロボット破蓋の全身が揺らいでスラスターがこっちに丸見えの状態になる。一番むずかしいのはここからだ。


「お願いします!」


 ナナエが叫んだと同時に発砲する。そして、着弾するよりも早く俺は再びナナエの身体の主導権を得た。

 ――次の瞬間、ロボット破蓋のスラスターにナナエの弾が直撃し大爆発を起こした。当然、かなりの至近距離で起きるのだから爆風爆炎破片が思いっきり俺に降りかかってきた。


「――いてえ!」


 爆発が収まってあとに残ったのはでかいロボット破蓋の破片だ。それが俺の肩に突き刺さって激痛を放っている。

 もう勘弁してくれと言いながら俺はそれを引き抜いた――すると肩から血が吹き出て真下にいたヒアリにかかってしまう。


(あー! 何やっているんですか! ヒアリさんが汚れてしまうでしょう!)

「す、すまん。大丈夫か?」


 俺が謝罪するが、ヒアリはなぜか何も言わずに黙っていた。血がヒアリの戦闘服の一部を染めてしまっていたが、それ以外の怪我はなさそうだ。


 意外と痛みが早く引いたので、ナナエに身体の主導権を返す。

 ナナエはすぐに立ち上がり、ヒアリもふらふらと力なく立ち上がった、

 さっきナナエがスラスターを破壊したロボット破蓋はすでに姿が見えない。恐らく爆発して落下していったのだろう。

 もういっきのロケット弾を構えているのはまだ下の方で空中に浮かんでいた。


 そして、またロケット弾が放たれる。

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