第95話 ロボット破蓋5

 大穴近くにまでたどり着いてから、ナナエとヒアリは携帯端末に送られてきた破蓋の情報を確認し始める。


「暗くてよく見えないよー」

「最新観測所の記録性能では破蓋の姿を捉えきれていません。厄介ですね」


 ナナエの携帯端末で破蓋の情報を見ると、黒い影のようなものが映っているだけだった。しかし、これは見覚えがある。前回浮上してきたロボット破蓋と同じだ。てことは……


「恐らく数時間前に戦ったものと同じタイプでしょう。核を破壊していなかったので復活した後に戻ってきたのかもしれません」

(しばらく休んでいりゃいいものを仕事熱心なことで)

(同感ですが破蓋にはそういう概念があるように見えません)


 ナナエのツッコミはさておき、こんなペースで浮上をやらされているのなら破蓋もブラック企業の社員とかだったりしてな。そう考えると倒すのにいささか躊躇が――いや、向こうはこっちを問答無用に殺しに来るしやっぱり同情の余地もねえわ。


 俺たちがあーだこーだ話している脇で工作部三人が大きな画面の携帯端末――タブレットみたいなのを覗き込んで、


「ウィ」

「ミミミさんの言う通り確かに2体いますね」

「よく見分けられるなー。言われるまであたしも気が付かなかったよ」

「確かに影が2つ――ってなんで破蓋の情報を見れてるんですか!?」


 ナナエが一瞬工作部の指摘に頷いたが、すぐに驚きの顔に変わってしまう。


(なんだ、おかしいのか?)

(破蓋が浮上してきた場合の情報は機密事項であり確認できるのは英女と先生だけです。解析や調査が終わった後に資料として学校の生徒には公開されますが、この段階での工作部の方々が見ることは出来ないはずです)


 俺の問いにナナエが答える。ほーん。なるほど。まあ速報は間違ったり情報が大げさだったりする場合もあるから精査したあとに広めたほうが良いからな。


 ナナエの指摘に工作部部長のハイリはケラケラと笑い、


「ウチのミミミは優秀だぞー。英女の携帯に飛んでくる電波なんてそこらじゅうに広まっているんだから、こっちもあれやこれやで仕入れたひみつ道具で傍受し放題。まあ受信した情報は暗号されているけど、ミミミのすごい技術でちょちょいといじれば全ての情報を閲覧可能てことだ」

「なんてことを……」


 ナナエは頭を抱えてしまう。この世界でも当然電波ジャックなんて違法に決まっている。さっきの黒髪風紀委員が工作部がなにかしそうだとすっ飛んできた理由がよく分かる。こいつら何をしでかすかわかったもんじゃない。


 しかし、ナナエは頭を振って、


「今は時間もありませんし細かい話はなしにしましょう。今は破蓋の破却が優先です」

「本当だ、影が2つあるね。すっごーい、全然気が付かなかったよー!」

「ウィ……」


 ヒアリは手を上げて工作部を称賛してミミミの頭を撫でている。小学低年齢ぐらいの見た目のミミミは少し顔を赤くしていた。

 そんなことはどうでもいい。それより、


(2つってことはさっきのと違うのか?)

(わかりません。戦ってみるしかないですね)


 ナナエは装備を整えて立ち上がる。ヒアリも肩に触手を付けて両腕にワイヤー発射機をつけて触手の補助で立ち上がった。


「ウィ?」

「大丈夫かと聞いてます」

「うん、全然問題ないよー。ありがとうね」


 ヒアリは笑顔でまたミミミの頭を撫でていた。ミミミは嬉しそうだったでなぜか通訳しているマルも笑顔になっている。

 ここでハイリが首を突っ込んできて、


「あたしらも破蓋のこともっと調べたいからさー、ナナエたちが降りたら無人機を大穴に降ろして破蓋を観測するからよろしく」

「無人機?」


 ナナエが首をかしげると、ハイリはトラックの荷台の隅に置いてあった箱を開けた。そこには俺の世界でプロペラで飛ぶドローンとかいうのと同じ物が入ってる。ハイリはそれを持ち上げて、


「これを大穴におろして破蓋の姿を記録するんだ。戦ったりはせずに離れているところから見ているだけだしいいだろ?」

「邪魔はしないでくださいよ?」

「大丈夫大丈夫。ただの無人機だし邪魔だったらこいつごと一緒にぶっ壊してもらっていいから。情報は常時記録して地上で記録するから途中まででも全然問題ない」

「……まあいいです。好きにしてください」


 ハイリはケラケラと笑っているが、ナナエはやや困惑気味だ。どうも工作部の連中は本格的に破蓋との戦いに首を突っ込む気らしい。人手不足だし、ヒアリがこんな状態だから気にかけてくれているのかもしれない。


 ナナエは大口径対物狙撃銃を背中に背負うと、


「さあ行きましょう」

「うん!」


 ヒアリとともに大穴の底へと降りていった。


 ――――


(本当にドローン――無人機を飛ばしてやがる)


 第3層に降り立った俺達の少し上をドローンが浮かんでいた。羽虫の音みたいなブイーンという音がかすかにナナエの耳にも届いていた。


(まあ放っておきましょう。今は破蓋の破却に集中すべきです)

(だな)


 俺もナナエに同意する。

 ナナエの携帯端末には浮上してくる破蓋の現在位置が表示されていた。すでに第4層近くまで到達していて、あと数分でここに現れるだろう。


「ヒアリさん」

「なに?」


 ナナエがヒアリに問いかけるとヒアリは可愛らしく首を傾げる。

 

「……いえ、今回の破蓋の正体は未だによくわかってないので気をつけてください」

「うん、ありがとうね」


 ヒアリは屈託のない笑顔をみせてくる。かわいいんだろうけど、ヒアリの問題を知ると痛々しく見えてしまった。


 やがてゴーという音とともに2つの光が大穴の底の方から見えてきた。


(本当に2体来やがった)


 俺は驚きよりもうんざりした気分になってしまう。

 スラスターを吹かせたロボット破蓋が2体かなりの速度でこちらに向かって上昇してきていた。本当に数が増えてやがる。どうなってんだ。

 

 ナナエは即座に大口径対物狙撃銃を構えて、


「確実な破却の方法はわかりません。なので前回と同じく背中についている推進機材を破壊して追い払います。ヒアリさんはここで待機しておいてください」

「う、うん」


 戦いたがっているヒアリは落ち着かない感じだが、無茶をする感じはない。とりあえず、さっさと追い払おう。


(ん?)


 ナナエがロボット破蓋の1機に照準をあわせたときに俺は気がついた。1機は前回と同じくレールガンを構えていたが、今狙っている方は違う。もっと巨大な筒のようなものをこちらに向けていて――おい、あれってまさか!?


(代われっ!)

「――――っ!?」


 俺が反射的に叫んだのと同時に、ロボット破蓋が構えていた筒から発射される。

 それはロケット砲とかバズーカとか呼ばれていたやつだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る